企業の戦略的意思決定を進めるには?必要な情報のまとめかたを解説
企業の戦略的意思決定を進めるためには、情報という素材が必要です。
ここでは、企業の戦略的意思決定を進めるために必要な情報をまとめる方法について解説します。
戦略的意思決定とは
まずはじめに、「戦略的意思決定とは何か」について簡単に解説していきます。
戦略的意思決定の特徴
戦略的意思決定は、組織や企業の長期的な方向性や競争力を確保するために行われる意思決定のことをいいます。戦略的意思決定は、組織のビジョンやミッションに基づいて、将来の成果や目標を達成するための戦略や計画を策定することを目的としています。
戦略的意思決定の特徴を以下にまとめたので、参考にしてみてください。
<戦略的意思決定の特徴> 長期的な視点がある:戦略的意思決定は、将来の方向性や目標を考慮し、組織の長期的な成功を追求するために行われます。組織の使命やビジョンに基づき、競争環境や市場の変化を予測しながら、適切な計画を策定し、実行していきます。 組織全体が関与している:戦略的意思決定は、組織全体の関与が求められます。経営者や重要な利害関係者との協力や意見交換が行われ、戦略の策定における情報や知見が共有されます。 リスクと不確実性を考慮している:戦略的意思決定では、将来の不確実性やリスクを考慮に入れます。市場の変動や競争の激化など、外部環境の変化に対応するために、リスク評価やシナリオ分析などの手法が活用されることがあります。 資源配分を行っている: 戦略的意思決定では、限られた資源をどのように配分するかが重要な要素となります。組織の優先順位や投資方針を考慮しながら、リソースの最適な活用を図ります。 |
戦略的意思決定は、組織の長期的な成功を達成するために不可欠なプロセスです。
将来の方向性を決定し、競争力を維持・向上させるための方向性を決めるために、経営者や戦略立案チームは、市場分析、競合分析、組織の強みと弱みの評価など、複数の情報の分析を通じて、戦略を策定していきます。
戦術的意思決定・管理的意思決定とは
戦略的意思決定の類似概念に、「戦術的意思決定」・「管理的意思決定」があります。
戦術的意思決定
戦術的意思決定は、短期的な目標や目的を達成するために行われる意思決定です。
通常、中間管理職や部門の責任者が行います。戦術的意思決定は、戦略的意思決定を踏まえて決定された組織の具体的な目標に基づいて行われ、リソースの配分や活動の計画立案など、具体的な戦術や手段を決定することに焦点を当てます。
戦術的意思決定は、日々の業務やプロジェクトの進行に関与し、組織の運営や目標達成に直接的な影響を与えます。
管理的意思決定
管理的意思決定は、組織や企業における管理者やマネージャーが日常的に行う意思決定のプロセスを指します。管理的意思決定は、組織の運営や業務の管理、問題の解決、目標の達成などを目指して行われます。
戦術的意思決定・管理的意思決定は、共に戦略的意思決定を踏まえて実行されます。
企業の戦略的意思決定プロセス
戦略的意思決定は、企業が将来の方向性や目標を設定し、達成するための戦略を策定するプロセスです。一般的な企業の戦略的意思決定プロセスは、以下の段階で構成されます。
状況把握
戦略的意思決定プロセスの最初の段階は、現在の状況を把握することです。
これには、内部の組織や資源、競合状況、市場動向、顧客のニーズや要求など、さまざまな情報と分析が必要です。情報収集やデータ分析などの手法を用いて、現状の理解を深めます。
戦略立案
状況把握の結果を基にして、戦略を立案します。
戦略立案では、組織のビジョンや目標に沿った方向性を設定し、それを達成するための具体的なアクションプランや戦略的な選択肢を検討します。
市場参入戦略、製品やサービスの開発戦略、競争戦略など、さまざまな側面を考慮しながら戦略を策定します。
戦略の評価
戦略を策定した後、その妥当性や実行可能性を評価します。
戦略の評価では、リスク分析や財務分析、市場の反応の予測などを行い、戦略の成果や効果を見積もります。
また、戦略の実行に必要なリソースや能力の確認も行います。評価の結果を基にして、戦略の修正や再検討が行われることもあります。
合意形成
最後の段階は、関係者や意思決定者の間で戦略に対する合意形成を行うことです。
戦略的意思決定は通常、組織内の複数の関係者や部門が関与するため、合意形成が重要です。意見や利害の調整、コミュニケーションの促進などが行われ、最終的な戦略の承認や採用が行われます。
これらの各プロセスでは、意思決定のため様々な情報が必要になります。
<参考記事> 「企業の意思決定を支える経企勉強会」レポート
戦略的意思決定の実行にあたって分析すべき情報の例
戦略的意思決定を実行する際には、さまざまな情報を分析する必要があります。
この章では、戦略的意思決定において分析すべき情報の例を、いくつか解説します。
意思決定会計
意思決定会計は、意思決定において会計情報を活用する考え方です。
意思決定会計は、財務会計や管理会計の手法を活用し、投資判断やコスト分析、利益計画などの情報を分析し、戦略的意思決定の参考とします。
管理会計・財務会計の違いについては、以下の記事を参考にしてください。
<参考記事> 管理会計とは? 経営において理解すべき財務会計との違いと特性
予実管理表
予実管理表は、予算や目標と実績を比較するためのツールです。
組織の目標や戦略の実行状況を把握するために利用されます。予実管理表では、収益、費用、利益、生産性などの指標を監視し、目標達成の進捗状況を評価します。目標の達成が芳しくない部門があれば、撤退の判断をすることも必要になります。
自社の中計
中計(中期経営計画)は、将来の数年間の戦略や目標を示す計画です。
中計は、事業の成長戦略、市場展開戦略、人材戦略などの情報が盛り込まれています。
戦略的意思決定を行う際には、自社の中計を参考にしながら、現在の状況と将来の方向性を照らし合わせることが重要です。
KPI
KPI(Key Performance Indicators)は、組織や部門のパフォーマンスを評価するための指標です。KPIは、戦略的な目標に対する進捗状況や成果を測定するために使用されます。
これまでのKPIが達成されているのか、未達なのかを確認することで、未来の意思決定の参考にすることができます。
他社のIR資料・中計
他社のIR資料や中計は、競合他社の戦略や業績情報を把握するための重要な情報源です。
他社のIR資料には、業界の概況が記載されていることもあるため、他社が外部環境に対してどのような戦略を立てているのか分析することができます。
統計情報
統計情報は、市場や業界全体の動向や傾向を把握するために活用されます。
政府機関や業界団体などが公表する統計データやレポート、市場調査会社が提供する市場データなどが含まれます。
統計情報を分析することにより、市場の成長率、需要と供給のバランス、競合他社の動向などを把握し、戦略的な意思決定に活かすことができます。
業界紙・業界メディア
業界紙や業界メディアは、特定の業界に関するニュースや情報を提供するメディアです。業界トレンド、最新の技術動向、競合他社の戦略や新製品の発売情報などを把握するのに活用できます。また、業界の有識者のインタビューや意見記事なども参考にすることで、洞察を深めることができます。
組織内の情報を集約する際の問題
前の章では、社内外の分析すべき情報について解説しました。
しかし、情報を集める際、特に組織内の情報を集約する際には、いくつかの問題が生じることがあります。
ここでは、組織内の情報を集約する際の問題について解説します。
管理フォーマットが統一されていない
情報を収集する際には、統一されたフォーマットやテンプレートが利用されることが望ましいです。しかし、経営企画など集約する立場から意識して統一しないと、それぞれの使い勝手に合わせて組織内で異なるフォーマットやテンプレートが使用されてしまいがちです。異なるフォーマットやテンプレートを使用することで、情報の比較や統合が難しくなり、意思決定に支障をきたす可能性があります。
データの定義が明確でない
データの定義が明確でない場合、情報の収集や集約が困難になるだけでなく、データの一貫性や信頼性も低下します。
たとえば、KPIの設計において、KPIに使用するデータの定義が明確でないと、異なる部門や担当者が異なるデータを提出してしまう可能性があります。データの定義を明確にすることは、正確な情報の収集と意思決定の基礎となる重要な要素です。
また、前提とするもの(KPIであれば、人的評価だけではなく、経営戦略や組織の目標、評価と結びついた設定になっていること)が正確に反映されているかを確認することも重要です。
同期が取りにくい
情報のタイムスタンプにずれ発生しやすい仕組みで運用をしていると、同じデータを利用しているつもりで全く異なったデータを見ていることや、異なるデータを見ているつもりが同じデータをみていたなど、重大な問題が発生してしまいます。
最新版として利用していたデータに後から更新がかけられてしまうと、修正にも莫大な時間がかかります。また、運営ルールが細かくなり、現場の運用に過剰な負担がかかります。
情報集約の効率化例
以上のような問題を解消するためには、情報集約の効率化をしていくとよいでしょう。
ここでは、情報集約を効率化するための例について解説します。
エクセル業務をシステム化する
エクセルなどのスプレッドシートを使用している場合、重要な情報やデータをシステム化することで効率化を図ることができます。
例えば、業務フローに適合したSaaSを利用してデータの入力や処理を自動化し、情報の一元管理や共有を容易にすることができます。
<参考記事> 脱「Excel」の経営管理DXでスピーディーな意思決定(前編)
DWH(データウェアハウス)の構築
データウェアハウスは、組織内のさまざまなデータソースからデータを収集・統合し、分析や報告に活用するための中央集約データベースです。データウェアハウスを構築することで、データの一元化と一貫性の確保が可能になります。
ただし、導入までの要件定義コストや運用コスト、金銭的コストが莫大にかかるため、組織の規模やニーズに応じて検討する必要があります。また、大規模なものを構築すると、組織の変化に応じた柔軟な変化が取りにくくなる可能性もあります。
外部人的リソースの利用
情報集約や効率化のためには、外部の専門家やコンサルタントを活用することも有効です。
外部のリソースは、経験豊富な専門知識を持っており、情報集約の改善策や効率化の提案を行ってくれます。外部人的リソースを活用することで、迅速かつ効果的な改善を実現することができます。
ただ、外部人材は、自社の内部事情については明るくないため、依頼内容を適切にコントロールすることが必要です。
まとめ
ここまで、戦略的意思決定のプロセスや、戦略的意思決定に必要な情報収集、情報収集の効率化などについてみてきました。
ぜひ自社の業務の参考にしてみてください。
著者プロフィール
2018年より個人事業主としてリラクゼーション事業を経営する傍ら、研究開発系ベンチャー企業経営における事業企画を受託。
2021年にはマザーズ上場IT企業内にて経営企画部の立ち上げに参画し、属人化していた経営企画業務の標準化を推進。
2022年、グロース上場コンサルティング企業での事業企画に従事。
事業のフェーズに応じた戦略立案と確かな実行を見据えた施策表現を強みとして、中長期的なビジョンを踏まえた数多くの中期~短期施策立案を手掛ける。