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「現役ベンチャーキャピタリストに聞く シリーズB以降の資金調達と予実管理」をテーマにパネルディスカッションを開催しました(前編)

事業拡大・成長のための大きな要素の一つである資金調達。特に、ベンチャー企業はエクイティファイナンスにより財務基盤を強化できれば、事業を大きく加速させることに繋がります。

先日、DIGGLE株式会社は、ケップルキャピタル ファンドマネージャーの堂前泰志氏をお招きし、「現役ベンチャーキャピタリストに聞く シリーズB以降の資金調達と予実管理」と題したオンラインセミナーを開催。DIGGLE株式会社のCOO荻原隆一との対談形式で、エクイティファイナンスを実施するために必要な基礎知識や予実管理の実践的なポイントをお伺いしました。

この記事では、同イベントの内容を前・後編の2回にわたりご紹介いたします。前編では、予実管理する上での先行指標、IPO前後における予実管理の重要性などについてのお話をご紹介します。

KPIやメトリクスなど予実管理する上での先行指標

荻原:まずKPI、メトリクスに関してです。投資を検討する際に気にしているものがあれば教えてください。

堂前:一般的に多くのベンチャーキャピタル(VC)の方々が気にされるポイントと、ほとんど似通っていると思います。MRR、ARRから始まって、ユニットエコノミクスがどうなっているのか、あるいはペイバックピリオドやチャーンレートといった基礎的なメトリクスは、ほとんどの業種で共通して見ている部分だと思います。

荻原:そういった基礎的なメトリクスをご覧になる上で、気をつけている点はありますか。

堂前:特にチャーンレートやリピート率、あるいはアクティブ率などですね。どれだけお客様に受け入れられているのか、サービスとしてのエンゲージメントはどの程度あるのかを重視します。比較的コンバージョンしているけどアクティブ率が悪いケースは、一見チャーンレートが低くても、あるとき大量解約が起きることがあります。マーケティングのKPIを先行指標で見るものの、アクティブ率は注目して見ています。エンゲージメントですね。

荻原:ご契約いただいて、かつアクティブにご利用いただいているかどうかを見ておられるのですね。一般的にどんな業種でも見られるポイントを解説していただきましたが、広範囲の業界・業種・ビジネスモデルに投資される中で、切り口によって着目点が異なる場合もあるかと思います。そういったエピソードはありますか。

堂前:一つは、食品系のサブスクリプション(サブスク)コマースの会社の例です。この会社はユーザー獲得の調子が非常によくて、順調に伸ばしてきています。食品系のサブスクコマースって、一般的にはお菓子や野菜が多いですが、この会社は飲料です。業界平均のチャーンレートは非常に高くて、10〜20%と言われています。ただこの会社のチャーンレートは5%を下回っている。非常に優秀な運営をされています。その秘密を探っていくと、やはりサービスのUI/UXの工夫と、その改善スピードが非常に速い。

面白い取り組みをされていて、サブスクリプションで物が届くので、物が余ってくると休止したくなったり、解約したくなったりしますよね。そのときの「届けなくていいよ」のオン・オフの機能をシンプルにして、止めるのも簡単だけど再開するのも簡単にしていて。言われてみればコロンブスの卵的な簡単な話ですが、そこの自然な作りが受けて、結果として、ライフタイムバリューを伸ばしている。そこが、面白いなと評価しているところです。業種や企業によって特徴的な値が出るケースは多くて、表面的なメトリクスが優秀であるのもさることながら、企業ごとの特徴を探りにいくように気をつけています。

荻原:先ほどのチャーンレートが低いといった数字だけではなく、なぜそういった結果を得られているのか。それが今後の事業の成長のドライバーになるのかを、会社ごとに探しているイメージですね。キードライバーを探しにいく点においては、サービスのUI/UXについても触れていただきましたが、実際に投資先の企業をアプリで触って、使ってみるところまで入り込んで、検討されるイメージですか。

堂前:自分が使えるものは使いますね。

荻原:おそらくキードライバーは会社ごとに違うと思うので、探すのが大変かと思います。そのあたり、ほかにもこういった業界・業種ではこんなキードライバーだったというエピソードはありますか。

堂前:前職が銀行系のベンチャーキャピタルだったので、フィンテック関連の投資が多かったのですが、その中に決済関連のビジネスを行っている投資先がありました。なかなか業績はついてこなかったのですが、一点、決済ボリュームは毎月順調に伸ばしていて、ここが伸びてくるのは重要だろうと着目していました。個人向けの決済サービスなので、毎月ユーザーの生活にどれだけ溶け込んでいるかがポイントだと思っていました。

いろいろとマーケティング施策を打つのでユーザーが増えていくのですが、獲得したユーザーのアカウント当たりの決済ボリュームが落ちない。着実にユーザーに受け入れられているところをこのまま伸ばしていけば、ユニットエコノミクスがあって、いずれ黒字転換していくというシナリオが確からしいという仮説を立てて、リード投資を実行したケースもありました。

荻原:資金調達する側の視点としては、表面的な指標も数字としてはもちろん大事ですが、なぜその数字を達成できているのか、達成のために裏側として事業のドライバーがどの指標で、それを今後どう伸ばしていけるかといった明確な説明が、資金調達をする上で重要になってくるということですね。

堂前:かつそれが、将来にわたって再現性のある形での成長に繋がってくると、投資家サイドである我々は、安心して投資を進めていくことができると思います。

IPO前後における予実管理の重要性

荻原:続いて、IPO前後における予実管理の重要性です。過去の出資先の企業での予実管理にまつわるエピソードを教えてください。まずは、予実管理がうまくいっていると感じた会社について教えていただけますか。

堂前:上場した会社ですが、N-2期に入ってから、毎月月次予算が、売上ベースで5%以上外れたことがない会社がありました。これはすごいなと。ここまで合わせられる会社はなかなかありません。突発事象や外部環境変化があるので、クォーターでなんとか帳尻を合わせましょうといった話はよくありますが、その会社に関しては予実の不安が全くなく、スムーズにIPOまでいけてすごかったなと記憶に残っています。

荻原:その会社が売上予算を外さない要因は、どこにあったのでしょうか。

堂前:業種的には、法人向けアプリケーションなどを提供していく、半分受託っぽいビジネスだったので、基本的に営業の案件化から商談化、コンバージョンに至るリードタイムが少し長かったのだと思います。リードタイムの読み管理に非常に長けていた。予算の立て方も、読み管理の方法論も非常に上手くいっていた。ある程度テンプレート化されたビジネスだったので、「ここまで話が進めば、半年後にはコンバージョンするね」というのが見えていたので、そういう意味ではリードタイムの読み管理がすごくうまかったのが特徴だったのだと思います。

荻原:見込みのお客様のステップがあって、それをしっかりデータで捉えていた。そして今、このタイミングでここが足りていないと、何ヶ月後には少し足りなくなりそうだから、ここに対して打ち手を売っていこうといった感じで、迅速にPDCAが回っているようなイメージでしょうか。

堂前:そうですね。2014、5年くらいの時期からうまくPDCAを回すのが、未上場段階でできていたことが素晴らしかったと思います。おかげで我々の仕込みのバリュエーションは10億円以下だったと思いますが、IPOをしてピークで500億円くらいになっていたので、大儲けした銘柄の一つですね。

荻原:逆に、予実管理で苦労されているなと感じた会社のエピソードがあれば教えてください。

堂前:うまくいってないケースでも、頑張って達成しようと努力はされるんですよね。努力されるので、「無理めな案件をとります」ということに陥ってしまう。すると、カスタマイズ要求が強くきたり、CS対応が重くなったり、粗利のところで結構いたので、結果的に赤字受注になったり利益を出せなくなってしまったりするケースは、すごくたくさんあります。トップラインを作るのが得意な企業も多いですし、営業力があって、なんとか力技で合わせにいくところは素晴らしいと思います。一方でコスト管理、原価管理がある意味軽視されてしまって、最終的に帳尻が合わなくなってしまうケースはよく見かけます。

荻原:やはり無理めな案件が増えてくると、一時的にトップラインは合うけど、持続的に利益を出していく形にならないということですね。

堂前:無理めな案件をとりにいくがために、例えばパフォーマンスの合わない広告を多めに投下してしまって、今度はCSで合わせようとして、また無理めなことをやってといった感じで、ドツボにはまってしまうケースはときどき見かけます。

予実管理以外のリスク

荻原:次に、本日のテーマは予実管理ですが、それ以外のリスクについても、これまでキャピタリストとしてご活躍されてきた中で、遭遇したものがあれば教えてください。

堂前:IPOの観点で言えば、重要な論点として昔から言われている話ですが、労務管理はクリティカルになるケースも多く、大きな問題だと思います。私が失敗した投資でいうと、既存投資先で社外役員をやっていた会社でしたが、皆さん頑張って働いてるのはよく見えていました。大きい受注がとれそうだったので、大きくビジネスをブーストするために追加出資が必要ということで、我々ともう一社のVCで追加出資をしたんです。その追加出資を着金した翌月に、一生懸命働いてくれていると思っていた従業員の皆さんから「未払いの残業代があります」と。追加出資で我々から3000万、もう一社のVCからも3000万、6000万を調達したのですが、未払い残業代が4000、5000万ありますと。未払い残業代って、大体時効が3年間くらいらしいんですね。だから過年度の分も合わせて清算を求められて、追加で調達した6000万のうち、数千万が一気に未払い残業代の精算で持っていかれてしまいました。そして追加出資した1・2か月後には、会社が立ち行かなくなってしまったという悲しい思い出があります。

荻原:事業に踏み込んでいくための資金として調達したけど、過年度の未払い残業代で全てなくなってしまって、事業自体も、立ち行かなくなってしまったんですね。

堂前:15年くらい前の話なので、未払い残業代の不存在などは、当時の投資契約書などにも、もしかしたら表明保証でカバーされていなかったのかもしれないです。ただ、どちらにしろ労働債権って債権の中で最強じゃないですか。だから会社としては請求されたら、払わないわけにはいかないと説明を受けて、払って、結果会社は飛びました。これは私がだまされたのかもしれないし、本当にそうだったのかもしれないというのは、いまだにわからないです。社外取締役をして中を深く見ていても、わからないことってあるんだなと痛感しました。

荻原:3年くらいさかのぼったときに、3年前には働いていたけど、辞めたという方もいると思いますが、そういった部分はどうなるのでしょうか。

堂前:IPOのプロセスに入る段階で、おそらく結構経験をされている方もいらっしゃると思いますが、未払い残業代の不存在、請求しませんという一筆を過去の従業員も含めて取りに行かなければならないというオペレーションが発生するはずです。これもIPOのプロセスに入ると、重い手続きになります。

レポートの後編では、IPO前後における予実管理の重要性などのトピックについてのお話をご紹介しています。後編はこちらから。

DIGGLE株式会社では毎月、予実管理業務に関するセミナーを開催しております。ぜひご参加ください。

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