「元大和証券公開引受部の現役ファイナンス責任者が語る予算策定のポイント」をテーマにセミナーを開催しました(後編)
当記事はセミナーレポートの後編となります。
前編はこちらから。
DIGGLE株式会社では、「元大和証券公開引受部の現役ファイナンス責任者が語る予算策定のポイント」と題し、株式会社ROXXの執行役員 経営管理部長・堀直之氏をお招きして、適切な予算策定についてのセミナーを開催しました。
同セミナーの内容を前・後編の2回にわたりご紹介しています。後半では、予算策定フローや予算策定シートの仕組みについてのお話をご紹介します。
株式会社ROXXの予算策定フロー
当社が毎期どんな形で予算の策定をしているかのお話をします。
まず予算のスケジュールです。予算策定のゴールは、期末日の取締役会決議が一般的なゴール期日になります。これに対していつから予算の策定を始めるか。期末日から75日前、2ヵ月半前くらいから予算の策定を始めます。早すぎると、決議するときと事業の状況が大きく変わった前提条件の積み上げで予算が作られてしまうので、最初に作り始めた前提条件と実際に決議するときの前提条件が大きく変わっていることになってしまいます。一方で遅すぎると、当然詰めた事業計画が作れなくなってしまうので、弊社はほぼ教科書通りですが、2ヵ月半前から予算の策定を始めています。
2ヵ月半前に、まず社長から経営会議の部門長レイヤーに対して、「来期以降の3年はこれくらいで行きたい」という定量的な目標と「新規事業をこんなふうにやりたい」という定性的な目標のイメージを伝えます。
そして、部門長と「現実的にはこうだよね」とディスカッションを重ねて、社長と部門長の間で一定の目線を合わせます。
そのあと、部門長レイヤーが部門別の事業計画の策定をします。これは定性的な施策計画、それから定量的なKPI、PL計画に落とし込みます。
そのあと、部門別の予算と足し算した統合予算等を持ち寄って、予算合宿をします。「来期はこれくいらい売り上げを伸ばしますから、これだけ投資をさせてください」というプレゼン大会をして、経営会議メンバーで合意をとります。
大枠の合意を取ったあと、最後に「実際にこの予算をリリースするとこんな問題が起こるよね」という精査を、期末55日前から30日前くらいまでに行います。この過程では、週2程度のペースで社長との1on1や経営会議での議論を重ねた上で、最終的な社内合意をとります。
そのあと、当社では結構外部の方々からの意見聴取をはさんでいます。これは特殊だと思います。それを経てから取締役会決議になります。当社は9月末決算なのですが、取締役会決議を9月30日ギリギリに行います。大体取締役会は中旬くらいに行っている会社が多いと思いますが、中旬時点で10月の売り上げって、見えている会社は優秀ですが、見えてない会社も結構あると思います。15日と30日に決議するのでは、売り上げの精度に雲泥の差が出るので、弊社は15日くらいに取締役会をして、「大枠これでいきます。ただ10月1日の新規獲得者数と9月末の解約者数に関しては、調整をした上で9月30日に再度決議をさせてください」と9月中旬に言って、9月末に決議する流れを組んでいます。
外部からの意見聴取ですが、メンバーとしては社外取締役と株主、あと当社は上場準備中なので、主幹事証券から意見を聴取しています。主幹事証券に関しては、バリュエーションの観点でフィードバックをくれる事業法人営業区分と、予算の制度上審査の観点でアドバイスをくれる公開引受区分ということで、合わせて6人からそれぞれ意見聴取をしています。予算策定がなされる1ヵ月前から半月前までの2週間ちょっとの期間にこれだけの意見聴取を受けて調整するのは相当タイトです。とは言うものの、社内のメンバーで作れる事業計画は、社内のメンバーの実力の範囲内でしか事業が伸ばせなくなってしまいます。こういった外部の上のレイヤーにいる方々から意見聴取をすると、その先輩方が上場会社としてぶち当たってきた課題も踏まえて、「こうしたらいいよ」とアドバイスをもらえますから、よりレベルの高い、事業成長を最大化する事業計画に仕上がるのではないかと思います。
よく「社外取締役にはどんな方々を入れたらいいのか」とご質問をいただくのですが、自分たちよりも3つ、4つ上のフェーズの会社を実際に運営された経験のある方々を社外取締役に入れておくと、有用なアドバイスをいただけるかと思います。
予算策定シートの仕組み
どんな仕組みを使って予算を策定しているかをお話ししていきます。結論としては、システム化ができていなくて、Googleスプレッドシートを使って予算策定をしています。ほぼExcelとイコールのシステムです。
仕組みとしては、部門別シートと全社統合です。当社の場合は部門が4つあります。エージェントバンク事業部、バックチェック事業部、開発、それからバックオフィスとなります。それぞれ4×4のシートを作っています。部門別に売上の明細、これはKPIからの積み上げで、計算式で作っています。それから経費の明細、これは大体取引先別か案件別で積み上げています。それから人件費の明細、これは個人別に給与の積み上げで作っています。それをクエリ関数、それぞれのシートにあるものを条件式で引用してくる関数なんですが、これで費用と売上の統合明細をクエリ関数で作って、それを全社統合シートにIMPORTRANGE関数を使って飛ばします。IMPORTRANGE関数というのは、あるスプレッドシートから別のスプレッドシートにデータを飛ばす関数です。部門別シートを修正をすれば、自動的に全社統合シートも修正される仕組みを作れるので、IMPORTRANGE関数は非常におすすめです。
次に全社統合シートですが、部門別シートからIMPORTRANGE関数を使って飛ばしてきたシートがあります。そこからSUMIF関数で複数条件に当てはまるもの、これは勘定科目と月を条件に引っ張ってきて、全社の月次PLと部門別のPL、月次PLに集計し、それを年次にまとめて、全社PLの年次PLを作っているような流れになります。
予実管理シートの仕組み
予実管理シートは、2つの目的でやっています。
前月以前のものは、予算に対して実績がどれくらい進捗するかという予実のチェック。当月以降は、予算に対して着地見込みがどうなっているかという予算対着地見込みのチェックのシートとして作っています。
予実に関しては、会計システムのfreeeがAPIを開放しているので、アドオン機能でfreeeのシステムからAPIを使って、スプレッドシートへボタン一つで自動に落ちてくる仕組みを使って、実績シートに数値を引用しています。それがそのまま、全社PLの予実に反映される仕組みにしています。着地見込みはまた面倒なのですが、結論としては、予算を毎月作るみたいな作業をしています。部門別シートは、向こう1~2ヵ月の見込みに応じて毎月更新していき、それが全社統合シートの予算対着地見込みに落ちる仕組みを作っています。
本来はシステム化して、もっと属人的じゃない形でやっていきたいですね。スプレッドシートにすると関数を組む能力のある人が限られてしまうため、経理の一メンバーが、何か前提条件が変わったときにそれを修正できなくて、いちいちエンジニアに修正してもらってチェックをしてもらう、この仕組みができる人、役員クラスにチェックをしてもらうことが必要になってしまうので。本来は全然よくない仕組みだなと思っています。予算とフローについては以上です。
質疑応答
セミナーの最後には質疑応答が行われ、参加者からさまざまな質問が寄せられました。ここでは一部をご紹介します。
Q.スプレッドシートで作成した予算や予実管理の内容から、社内向けの資料作成にはどの程度時間をかけていますか。
A.異常なほど時間をかけています。どれくらいかと言われると、予算策定の期間中は、40%くらいは予算策定周辺のところでリソースを使っている状況です。経営会議のために、スライドやグラフもないと効率的な議論ができないので、スプレッドシートだけではなく、グラフに落とすなどもしている状況です。
Q.スプレッドシートを活用した予算管理において、プロセス上の難点、付加価値の少ないところに時間を取られているというところがあれば教えてください。
A.一番非効率だなと思っているところが、やはり社内合意です。予算は「ここまでできればOK」というラインが明確にありません。「より成長した事業計画の現実的な達成計画が立てられればOK」というものなので、上限がない。そんな中で、予算策定期間は部門長やバックオフィスの担当役員レイヤーのリソースを無限に使い続けているのが、非常に無駄な作業だなと感じています。だからバックオフィスの責任者は、「今回の予算策定のゴールラインはここだ」という、言語化できないことを何としても言語化して、むだなコミュニケーションコストを削減するのが個人的には一番重要だと思います。
Q.変動が大きくなるファクターというところで、KPIがずれると売り上げもずれるということだと思うのですが、KPIの管理に関しては、実際どのように把握されているのでしょうか。スプレッドシートでやっていて、そこに事業部の方が打ち込むのか、KPIを管理するシステムがあってそこから自動で流れてくるのか、そのあたりはどう管理されていらっしゃるのでしょうか。
A.KPIの元データはセールスフォースと社内の管理システムに蓄積されています。セールスフォースと社内の管理システムからCSVを経由して、スプレッドシートに貼り付けをして、そこの貼り付けたデータを集計して、スプレッドシート上でKPIの予算と実績を対比する、システムというか仕組みを組んでいます。
以上、セミナーの内容をお伝えしました。
自社の苦労したエピソードを交えた堀氏のお話は非常に説得力があり、予算策定のポイントが明確になったのではないでしょうか。
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