「ユーザベース元CFO村上氏が語る『予実管理体制立ち上げのポイント』セミナー」開催しました 前編

先日、「ユーザベース元CFO村上氏が語る『予実管理体制立ち上げのポイント』セミナー」が開催されました。100名を超えるお申込みを頂き、大盛況で終えることができました。今回、講師としてお迎えした村上未来氏は元株式会社ユーザベースCFOであり、現在はご自身が代表取締役を務める株式会社somebuddyにてスタートアップの企業を中心にコーポレート部門や管理体制構築の支援を行っていらっしゃいます。

株式会社somebuddy代表取締役 村上未来氏

 予実管理インサイトでは村上氏の講演内容を前後編の2回に分けてお伝えします。本記事では主にIPO準備体制、IPO前の予算管理についてご紹介します。実際の講演内容に近づける為にも、村上氏の一人称形式でお送りします。

①IPOの準備体制について

 予実管理体制の構築前にそもそもIPOをどのような形で進めていけば良いのか、あるいはコーポレート部門をどう構築すれば良いのかといったお問い合わせを頂きます。まずは、そのご説明から差し上げます。

 前職でどのようにコーポレートの体制やIPO準備を整えたかをお話しします。IPO準備プロジェクト自体は証券会社の審査まではマネージャ2名で共に兼任で現業を抱えながら4割程度リソースを投下しました。東証審査に入る頃に専任で携わることのできる者を1人採用して進めていきました。

 振り返ると、専任でIPO準備に携われるメンバーをn-2期ぐらいの段階から採用してチームを組んでいけばよかったと考えています。それは何故かというと、マネージャー2名が現業と並行で進めた結果、チームマネジメントに投下できるリソースが疎かになってしまい、チームを疲弊させてしまったからです。

 優先順位の高い仕事としてIPOを進めていく上で本来すべきチームマネジメントが私の失敗でありしっかり出来なかったところです。ですから、専任体制として1名は早い段階から入れていけば良いと思います。

 それから、IPOに関わらずどういった形でコーポレート部門を構築していけば良いのかというご質問も多々頂きます。順番としては、下図のような流れで採用を進めていきました。

 まず最初に2013年に経理1名と書いてありますが、もとより経理をアウトソースしていた状態から内製化を図るために、最初に経理メンバーを採用したところから、コーポレート部門のチーム作りがスタートしました。そこから海外進出もあり海外コーポレートを1名採用、自分が契約書を全てレビューすることに限界が来たので法務を1人採用しました。また、種々の庶務業務も含め、非常に幅広い日々の仕事を私も含めて当時のコーポレートメンバーが引き受けていましたが、それでは回らなくなったので総務・庶務を担当するメンバーを採用しました。このような形で会社の機能の拡充とともにメンバーを増加させていきました。

 会社によって置かれている状況は様々ですので、この順番で採用していくという話ではありません。結果として、上場した時に派遣のメンバーも含めて20名弱という形になり、従業員全体の10%くらいのコーポレート部門の体制でした。。

 ここから振り返ってお伝えしたいのは、赤枠部分(上記図内)を採用し、結果として全従業員の10%程度という話でしたが、もう1度管理部門でマネジメントをするのであればそれぞれの採用を手前から実施していけばよかったと考えています。

 特に経理です。ユーザベースの場合は海外進出もし、会社数も増えてM&Aもあり…連結のグループ会社も増えていき事業部門も多角化していった中で、経理オペレーションを「回す」だけでなく「作っていくこと」が多分に比重を占めていました。

 となると、常に100%の稼働前提でチームを組んでいると何か起こってきたときに既存メンバーに大きな負担がかかります。その体制で続けていくと、チームが疲弊していきますし、そもそもオペレーションリスクも高いです。1人退職してしまったり、お休みしてしまったりすると途端に既存メンバーが120%で回さなければいけなくなります。

 ですので、成長が高い企業ほど1~2年後の成長を踏まえて手前で採用をするということにマネジメント側がコミットすることが非常に重要だと学習しました。

 また、先ほどIPO準備室で専任を1名置けたらよかったというお話をしましたが、内部監査も上場した後もしっかり回していかなければいけないので、n-2期程度から専任を設置できれば望ましいと考えています。

 IPO準備において内部監査をしっかり回すことが出来る——つまり何か部門でエラーが出た時にそれを指摘し、改善し報告するという自浄作用が形式的にではなく自主的に実施できている状況を示すとIPO審査で証券会社や東証から見ても心証が非常に良いです。

 IPOするためだけでなく、上場後も社会の器になっていく中でそういった自浄作用をもって会社の成長を支えるというのが必須になります。ですので、内部監査は決して形式的にやってはいけないというのが経験を通してお伝えしたいことです。そうしたことから、n-2期くらいのタイミングから専任体制が置けると良いのではないかと考えます。

 それから、IPO準備は是非とも社長も含めて重要課題を逐一共有する形で進めることをおすすめします。何か審査中にアクシデントや問題点が出てきたときに、社長筆頭にステークホルダーに協力を仰ぐことが必要な局面で解決を図ることがスムーズになります。状況に応じて戦略的なIPOスケジュールの延期や前倒しなどの意思決定も可能になってきます。

②予算管理について

 まず、予算作成の意義をしっかり理解することが重要です。予算は長期計画、中期計画、次年度予算のようにスパンで立てていく必要がありますが、ここは意思の表れであると思っています。毎年短期で翌年度の予算だけ積み上げていくのではダメです。5年後にどういった姿でありたいのかをマネジメントとしてイメージすることが一つ大事だと思います。

前職ではIPOする前の2015年に2019年-2020年での売上を100億円と掲げていたわけですが、結果として100億円水準はしっかり達成できました。ただ、5年間積み上げてロジカルに100億円を達成する筋道を立てていったわけではなく、掲げていたイメージをもってその後の戦略を推進していきました。

 n-3,4期あたりの長期計画において大事な話をします。例えば、成長率が毎年50%のペースの高い水準で成長しているので順調にいけば大丈夫…というように長期的な目線を欠いた状態にあったとします。その他方で上場時には時価200-300億円くらい行けばよいなとなんとなく目標を掲げていたとします。

 企業価値や時価総額はPSR、PERやEBITDA倍率といった株価倍率で形成されますが、実際のところターゲットとするIPOのタイミングと、現状の延長線上の50%成長のみでは200-300億円に届く業績になっていない…ということも生じ得ます。そうなると、「本当にこのタイミングでIPOしても良いのか?」という疑問も浮かび、VCとの間で認識の齟齬も出てきてしまいます。

 したがって、IPO時や5年後にどれだけの売上や利益を出せる会社なのかを数字で認識しておくことが重要です。

 また、中期計画において、「どの段階で黒字化するのか」を意思としてしっかり持っておかないと中々達成は難しいです。

 成長投資ということでいつまでも赤字を出していけばdisciplineのない会社になっていきます。そういった会社はIPOのファイナンスにおいても良い資金調達もできませんし、結局IPOしても投資家からの信頼を得ることが難しいと考えます。中期的に決めたタイミングで黒字化を図り、実施できるということをIPO前からも実績として残しておくとIPO後に有言実行の会社であると示せます。そうするには、やはり単年度予算のみを考えるマネジメントではなく、常に「3年後にこうありたい/あるべきだ」という確度の高い絵を描ける会社であることが重要です。

 加えて、単年度予算を管理する上では何が大事かというと、着地見込みをコントロールできることです。それから、イニシアチブを持った資金繰りも必要です。常にランウェイが何ヶ月程度あるのかをマネジメント間で共有できている会社が結果として資金調達を可能なものにしています。

 様々なベンチャー企業のアドバイスを差し上げている中で、今の現金残高をモニタリング項目としてマネジメントに共有しているケースを見かけますが、はっきりと向こう何ヶ月資金が持つかをKPIとしてマネジメント間で共有できている会社はまだまだ少ない印象があります。

 私自身も当時、IPO準備に特化しすぎてそこの管理が甘かったと思います。IPO前にエクイティファイナンスもやっているのですが、もう少し手前の段階でイニシアチブを持った資金調達ができたのではないかと振り返って考えます。

 いかがでしたか?前編ではIPOの準備体制、予算管理の大まかな概念をお話ししました。後編もどうぞご期待ください。


 DIGGLE株式会社では毎月、予実管理業務に関するセミナーを開催しております。是非ご参加ください。

セミナー詳細・お申し込みはこちらから

この記事を読んだ方へおすすめ