なぜ予実管理を行うのか?
こんにちは、DIGGLEの山本です。いきなりですが、皆様はなぜ予実管理を行うのか?という問いにどうお答えになりますか。
私がビジネススクールでお世話になり、弊社のアドバイザーも務めてくださっている清水信匡教授は予実管理が重要な理由を「企業にとって重要なことは計画にある目標を達成することです。当初の計画通りにいかないときには、どのような手を打つのかということを考えなければいけません。このように、予算を使った管理活動も含めた経営活動を予算管理と言います。」と説明してくださいました。
また、グロービス経営大学院のMBA用語集では「予算管理とは、期初の計画と期末の実績を把握・分析する活動のこと。企業は予算を確実に達成するため、実際の活動と、当初の予算とを比較して業績を分析する必要がある。この分析を踏まえて現場にフィードバックし、戦略や活動の修正を促すPDCAサイクルの一連の活動を、予算管理という。」と記述されています。
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12490.html
これら本質的な理由、つまり、予算実績管理業務とは経営目標を達成するための活動であることは疑いようがないのですが、今回はちょっと違った目線で予実管理を行う理由について書いてみます。
上場企業は必ず予算実績管理を行っている
さて、日本で上場に向けた準備を行うにあたり、東京証券取引所は新規上場ガイドブックという冊子をネット上で配布しています。ガイドブックは市場一部・二部編とマザーズ編に分かれています。ここではマザーズ編の内容をみていきます。
このコンテンツに「マザーズ事前チェックリスト」という章があり、この中に
マザーズへ上場することとなった場合には、通期業績及び四半期業績の開示と、業績見通しの公表を継続的に行っていただくこととなりますが、これらの業績等の開示には、投資情報としての有用性の観点から、速報性と正確性が求められます。また、業績見通しの公表に関しては、その後の事業の進捗状況に応じて、場合によっては業績見通しなどの将来予測情報の修正を行っていただく必要が生じますが、この修正を適時・適切に行うためには、月次での予算実績管理などが必要となります。
という記述があります。そう、そのため主幹事証券会社が証券取引所に提出しなければならない資料に予算実績比較表が含まれるのです。上場を経験された方にお話を伺うと、上場準備に入ってまず最初に主幹事証券会社や上場コンサルティング会社から言われるのは、「予算管理をきっちりと行ってください。乖離があってもいいので、その根拠をすぐに把握できる体制を作ってください。」なのだそうです。とにかく一番最初に苦労したのは予実管理、とおっしゃる方は本当に多いです。
このようなプロセスを経て上場した企業には、業績見通しの開示に関しての規則があります。続いて、この規則について詳細を見ていきます。
上場企業に求められる2つの情報開示
上場企業は、証券取引所から将来予測情報の積極的な開示を要請されています。要請ですので義務ではないのですが、実態としては業績予想を開示した上場会社は、平成28年3月期決算発表のうち全体の96.2%(2,265社)*なのだそうです。また、この96.2%のほとんどの企業が売上高、経常利益、純利益といった項目を含んでいるようです。
加えてもう一点重要な事項は、業績予想に修正が入るときには適宜開示が義務づけられています。こちらは要請ではなく、義務です。
- 売上高予想が10%以上変動する場合
- 営業利益、経常利益、純利益のいずれかが30%以上変動する場合
これらに相当する場合には、企業は直ちにその情報を開示をする必要があります。
ん?業績予想が義務じゃないんだったら、業績予想を発表していない会社は修正開示義務はないんじゃないの?と思った方もいるかもしれません。その場合でも、社内に「次期の業績予想」に相当する情報があって、その内容が前期の実績値と乖離したものである場合には、直ちに開示することが必要です。前期の実績値ですから、例えば、今期末に予想される売上高と直前期の売上高実績に同様の乖離が予想されれば直ちに発表しなければなりません。
上のマザーズ事前チェックリストに「投資情報としての有用性の観点から、速報性と正確性が求められます。」とあるとおり、これらは投資家保護の観点から規定されています。
業績予想開示の日米比較
ところで、アメリカではこのような業績予想の発表をする企業は稀なようです。短期の業績はアナリストによって予想されています。なぜ、アメリカの会社は業績の見通しを発表しないのかについては、大和総研のレポート、枝廣 龍人、2015『なぜ米国企業は中計を発表しないのか、市場、ガバナンス、経営戦略に見る日米の相違と日本企業への示唆』(http://www.dir.co.jp/consulting/theme_rpt/vision_rpt/20151022_010244.html)で、考察されています。
私が面白いなと感じたのは、日米のガバナンス構造の違いをその理由の一つとしてあげている点です。アメリカでは、取締役と執行役が区分されている企業が多く、発表した業績を下回った場合に取締役会から最高執行役(つまりCEOですね)が解任されるリスクがあるためと書かれています。なるほど。
今回は、企業が予実管理を行う理由について書きました。予実管理は皆さん苦労なさっている業務だと思います。こんな業務で苦労している、こんな機能があれば楽になるのに、というご意見があればどんどんお寄せください。皆様の声でDIGGLEは進化していきますので!
*株式会社 東京証券取引所 『平成28年3月期決算短信発表状況の集計結果について』(http://www.jpx.co.jp/news/1023/nlsgeu000001qcg1-att/nlsgeu000001qcio.pdf)