仰星コンサルティング本田氏を招き、「ユーザー視点でのシステム導入の勘所とは?」をテーマにセミナーを開催しました(後編)
当記事はセミナーレポートの後編となります。前編はこちらから。
会社の内部管理体制を整備するにあたって、システム導入を検討することも多いのではないでしょうか。
その場合、現在行っている業務をそのままシステム化するだけではなく、過去からの慣習で行っている不要な業務が存在しないか確認のうえ、ポイントを踏まえた導入を検討する必要があります。
先日、DIGGLE株式会社は、「ユーザー視点でのシステム導入の勘所とは?」をテーマに、仰星コンサルティング株式会社のパートナー公認会計士・本田 直誉氏をお招きして、セミナーを開催しました。
この記事では、同セミナーの内容を前・後編の2回にわたりご紹介いたします。後編では、具体的なシステム導入までの流れとポイントをご紹介します。
システム導入の流れ
各ステップについて、分析、計画、開発、導入のフェーズごとに色を分けて紹介しています。今回はパッケージシステムの導入を想定して説明します。
※分類の方法は一例です。
導入目的の明確化
新しいシステムを導入する際、いきなり具体的な内容を詰めるのはハードルが高いので、まずは現状を知るために自社の経営課題や経営戦略、事業戦略など、会社の将来ビジョンを確認することから始めましょう。
例えば卸売業の会社が厳しい環境を勝ち抜くために、既存顧客に頼るのをやめて、顧客の拡大を目指す経営方針を掲げたとします。そうすると、営業部門が顧客の新規開拓をすればするほど、小口の注文が増えて出荷量が増えて、最終的に倉庫部門がボトルネックになることが考えられます。もしこれが事前にわかっていれば、システム投資するべきポイントは倉庫部門に関する物流だとわかります。
このように、システム化が必要な理由や解決したい課題、業務フローでシステム化する範囲を明確にしていきます。
現状調査
現在の業務を洗い出し、システム導入により実現したい機能をリストアップします。イレギュラー対応が発生する業務とその内容も細かく可視化しておきましょう。
その後、現行システムに対する不満や改善点、要望の洗い出しを行い、問題点を明確にします。全ての業務を洗い出して可視化するため、現場担当者にしっかりヒアリングを行いましょう。
次に、洗い出した課題の優先順位をつけます。システム導入によって全ての問題を解決できるわけではありません。全体のバランスを見た上で、なるべく現場の声を優先させた優先順位づけを行いましょう。
構想策定
「現状調査」で把握した業務フローをもとに、将来の業務フローを作成します。この際に、業務担当者を集めて議論すると、より実効性の高い業務フローを作成できます。
次に、新システムへの要求事項を取りまとめます。関連部署からの要求を全て実行すると予算オーバーしてしまう可能性があるため、リストアップした機能に、機械的に優先順位をつけて、作る機能と諦める機能を選別しましょう。
最後にシステム導入を決定する上で、導入対象となるメインの部門やプロセス、システムの範囲を特定し、システム導入のスコープの大枠を決めていきます。
製品とベンダー選定
システム導入の成功にはベンダーの善し悪しが大きく影響します。無数にある中から全てのシステムやベンダーの情報を収集するのは現実的ではないので、必須条件を満たしているか、概算費用がどれほどかかるか、対象範囲をカバーしているかを選定基準に洗い出します。洗い出されたベンダーに対しRFI(Request For Information)いわゆる情報提供依頼書を提示して、回答入手後に評価基準に基づいて、3社から4社程度に絞ります。
その後、RFP(Request For Proposal)で提案依頼書を提示して、各ベンダーから回答を入手します。
次に、Fit&Gapで、システムが自分たちの機能要求とどの程度乖離があるのかを明確にします。ベンダーに質問をするだけではなく、デモを依頼して、実際に自社の業務シナリオに沿ってパッケージを動かして対面で質問し、システムの理解を深めることが重要です。
最後にRFPの回答やデモを踏まえて、自社の要求事項にフィットするかという観点で各システムの評価表を作成します。評価基準は五つ挙げられます。一つ目は機能の実現性です。標準機能で提供していない機能は諦めるか、アドインでの対応が必要です。二つ目は非機能要件の実現性で、機能要求とは違い、セキュリティなど致命的な内容が一つでもあれば、選定から外れる可能性があります。三つ目は柔軟性・操作性です。四つ目はプロジェクト体制です。ベンダーは長く付き合っていくパートナーになるので、担当者との相性やベンダー企業と自社のカルチャーがフィットするかもしっかり見極めましょう。五つ目は導入費用と保守費用です。
導入計画作成
稼働までの計画を作成します。ベンダーから提示されるスケジュール案は、システム構築にフォーカスしたものが多いので、データ移行や社内説明会、ユーザー教育などの項目も考慮した計画を作成するとともに、システム導入プロジェクトに専念する人材を選定しましょう。
導入計画の作成が完了したら、プロジェクトの投資決裁を得ます。一般的にシステム投資は大規模プロジェクトになるので、経営会議や取締役会での承認が必要になるでしょう。
要件定義
ベンダーが決まったら、具体的なシステム要件を決めます。整理した自社の課題を解決できる内容になっているかを確認するとともに、実現に必要な機能や性能を洗い出しましょう。ここで決めた内容をもとに、実際のシステム開発・導入が進められていくので、この工程でシステムが課題解決に繋がっていることをしっかり確認しておきます。
設計 / 開発
要件定義が完了すると、ベンダーは開発(カスタマイズ)プロセスに入ります。ここで可能であればプロトタイプを使って、実際に業務が回るかをチェックし、課題出しを行いましょう。プロトタイプ検証を行わないと、ユーザーがシステムに触れるのは、稼働の直前に行うユーザー受入テストの段階になってしまいます。カスタマイズ部分の動作確認も必要に応じて行い、認識のずれを防ぎましょう。
ベンダーと定例ミーティングを開催することもおすすめです。進捗内容の確認はもちろんですが、要件通りに開発されているか、認識のずれがないかを定期的に確認できると、終盤で大きな修正が発生するリスクを回避できます。
テスト
開発が終了したら、運用テストを行い、希望した通りの機能が備わっているか、問題なく動作するかを確認して、問題がなければ社内研修を行って運用を開始します。システムが要件定義通りに開発されているかと、最初に定めた導入の目的に即してるかを確認することがポイントです。万が一要件に沿っていない部分があれば、ベンダーに修正を要求できますが、要件定義で定めていないものは、対応の範囲外になってしまいます。
リリース・運用
システムを導入すると多くの従業員の業務フローを変更する必要が出てくるので、現場の混乱を最小限にするために、マニュアルやフローを作成しましょう。
システム導入プロセスごとの失敗要因と対応策
次に、各プロセスにおける具体的なポイントと、起こりうる失敗の要因・対応策をご説明します。システム導入が成功するかどうかは、計画フェーズまでの項目を適切に行うことが重要なため、今回は計画フェーズまでの項目に絞って注意点をまとめます。
導入目的の明確化
最初にシステム導入の目的を明確にすることが非常に重要です。失敗の要因としては、導入することが目的となりシステムが利用されないことが挙げられます。どんなに素晴らしいシステムでも、きちんとしたプロセスを踏まずに導入してしまうと、不要な機能が追加されたり、スケジュールが遅れたり、関係者が自分の希望だけを主張して部門間での意見対立が起こり調整が十分にできなかったりといった事態が発生しかねません。
このような事態を防ぐため、まず自社のメインビジネスや目標を達成するためのプロセス、それをサポートするメインのシステムは何かを広い視野で理解します。現在利用しているシステムの入れ替えだとしても、マーケットの変化によってシステムの全体像を変える必要性がないかを検証することが重要です。また、ユーザー部門の従業員に参加をしてもらい、目的やゴールを関連部門と共有することで、部門間や担当者間で解決したい課題を明確にすることも重要になります。
現状調査
新しいシステムに求める機能を知るために、現状業務の洗い出しを網羅的に行うことが重要です。失敗の要因としては、業務の棚卸が不十分で、システム導入後の業務が非効率になることが挙げられます。イレギュラーな業務の洗い出しまでしっかりできるように、部署の担当者ごとの業務体系を作成しましょう。
また、システム部門担当者が社内システムの全体像を理解していないためにシステムの必要性や導入メリットを明確化できず、適したシステムを選定できないことも失敗の一つとして挙げられます。業務に何が一番必要なのかを知っているのは実際に利用する現場の社員なので、現場の声を聞き、課題をはっきりさせることが重要です。
構想策定
現状業務の課題を適切に把握した上で、システム導入による費用対効果を勘案してシステム導入のスコープを決定することが重要です。
失敗の要因の一つとして、現場の声を聞かずに勝手に課題を推測して、システム導入のスコープを見誤ることがあります。ユーザーから本当に必要な機能は何かをヒアリングして、ユーザー要件という形でまとめることが重要です。
二つ目に、ベンダーに丸投げをして、開発段階で追加要望が発生するなどして手戻りすることが挙げられます。社内で現状調査を十分に実施して、要望を明確化することが重要です。
三つ目は、コストと効果が見合わないことです。希望通りのシステムだとしても、大幅に期間や予算をオーバーしてしまっては、導入が成功したとは言えません。優先順位が低い機能まで盛り込んでも業務効率化には繋がらないことを念頭に置き、費用対効果が最大になる方法を検討しましょう。
製品/ベンダー選定
複数の製品やベンダーを比較検討し、費用相場や自社の業種業態に必要な機能概要を把握することが重要です。
失敗の要因は三つあります。一つ目が、自社の業種や企業規模に合わないシステムを導入することです。そうすると大幅な機能改修や追加開発が必要になり、高額な導入費用がかかるなど、想定外のケースが発生してしまいます。このような事態を防ぐためには、一緒に導入プロジェクトの推進ができるベンダーを選ぶことがポイントです。
二つ目は、コストと効果が見合っていないことです。一般的に優れたシステムになればなるほど、当然コストも高額になっていきます。そのため、導入コストと導入による効果(人件費の削減率、作業の短縮時間)を十分に分析する必要があります。少なくとも2、3社はベンダーを比較・検討することで、費用の相場や、自社の業種業態に必要な機能など概要をつかみましょう。
三つ目は、システムと現状業務が整合しないことです。特に、新規で導入する場合には、既存フローにシステムを合わせようと無理なカスタマイズを行って失敗するケースがあります。パッケージシステムは元々汎用性が高く仕上がっているので、両者が整合しない要因を分析して、自社業務の変更を含め検討することが重要です。
導入計画作成
想定外の事態の発生を考慮して、予算を多めに見積もった計画を作成することが重要です。
失敗する要因の一つ目は、想定外のコストが発生することです。一般的にシステム導入は想定外のコストの発生が多いので、予算については事前に多く見積もっておくべきです。
二つ目に、導入計画の作成が不十分になることがあります。システムを導入すれば自動的に効率が良くなるわけではありません。該当する部署の社員がシステムを活用できるようにするために、十分な教育期間を設けて、従業員の目線に立って必要な情報・体験の機会を提供することが必要です。
要件定義
システム導入するべき現場の意見を明確にしておくことが重要です。失敗する要因は三つあります。
一つ目は現場の意見を取り入れすぎて、当初想定していたシステムから大幅に乖離すること、二つ目はユーザー部門の期待と乖離することです。どちらの対応策としても、現場の意見を取り入れつつも優先順位に沿ってシステム化を進めることが重要です。システム化しなかった部分の理由を説明できるようにしておきましょう。
三つ目は、要件が出し切れていないために開発規模が増大することです。ベンダーへの要求内容が不十分な場合、本当に必要とするシステムが提供されない可能性があります。社内で普段使用している言葉でも、外部から見たら不明な言葉があるので、業務用語を事前に説明することや、イレギュラーパターンを想定した上で、要件定義を行っていくことが重要です。
質疑応答
Q. システム導入を進める上でのプロジェクト体制についてアドバイスをいただけますでしょうか?(どういった部署からメンバーを集めるか、それぞれの役割、経営チームの関わり方など)
A. まず決裁者となる経営陣のコミットメントは非常に重要だと感じます。現場だけで導入を進めることはできないので、経営陣にも重要性を理解してもらえるような説明やコミュニケーションをとりましょう。またどういった部署からメンバーを集めるかでいうと、導入システムに関係する部門のメンバーを集めることが重要です。要件定義が十分にできないと失敗する大きな要因の一つになるので、ユーザー部門で業務を理解している人が、メンバーになることが重要です。
Q. 現在、当社ではエクセルベースで予実管理をしています。パッケージソフト等に移行する企業の売上規模など、移行タイミングの目安はありますでしょうか?
A. (DIGGLEからの回答)
我々のお客様でいうと、従業員規模が50人を超えた段階で導入をご検討いただくことが多いです。従業員が50名を超えてくると経営管理部と事業部との連携工数が膨大になったり、関わる人数が増えることでエクセルのミスの発生が多くなったりするためです。
従業員数が50人程度になると、おおよそ経営管理の人員が1名〜2名で、事業部が3,4つといった体制になると思うので、予実管理に関わる人数としては5名〜10名ほどになるかと思います。
A. (本田氏からの回答)
基本的にはエクセルでの管理が難しくなったタイミング、ということだと思うので、売上規模の目安はそこまで明確にはないと思います。業務負担が増えてきたタイミングだと、システム導入をする費用対効果も高くなるので、業務負荷等を踏まえて検討されるのが一番よいと思います。
以上、セミナーの内容をお伝えしました。
数多く上場申請書類の作成を支援された本田氏だけあって、非常に分かりやすく詳細にお話しいただきました。システム導入は、会社全体を巻き込んで入念に構築を行う必要があります。
システム導入による社内整備とともに、整えておきたいのが強固な予実管理体制です。「DIGGLE」は、業績の着地予測精度を向上させる予実管理クラウドサービスです。予算策定・予実突合・見込み管理・レポートといった、経営管理業務全体を「DIGGLE」上で一気通貫で行うことで、予実ギャップに対するアクションの早期化と経営層や事業部とのコミュニケーションの円滑化を実現します。予実管理体制を整えたい企業のご担当者様はぜひご検討ください。
また、DIGGLE株式会社では毎月、予実管理業務に関するセミナーを開催しております。ぜひご参加ください。