Chatwork廣島氏を招き、「上場企業経理部長が語る『上場前 予実管理の運用実態』をテーマにセミナーを開催しました(後編)
当記事はセミナーレポートの後編となります。前編はこちらから。
IPOを実現すると、資金調達はもちろん、企業認知度の向上や経営体制の強化などの大きなメリットが得られます。しかし、上場のための審査をクリアするためには相応の体制構築も求められます。
先日、DIGGLE株式会社では、Chatwork株式会社の経理財務部長・廣島 衛氏をお招きして、「上場企業経理部長が語る『上場前 予実管理の運用実態』」のテーマでセミナーを開催しました。
この記事では、同セミナーの内容を前・後編の2回にわたりご紹介いたします。後編では、上場準備の振り返りやその他の留意事項などについてのお話をご紹介します。
上場準備の振り返り
当社の上場時の従業員数は約100名で、コーポレート体制はCFO以下、経営企画、経理財務、法務労務、広報、人事、情シスと、約15名でした。上場準備の対応者としてはCFO、経営企画1名、経理財務1名、法務労務1名の4名でほぼ対応してきました。
当社の経験から、早めに取り掛かることが必要だと感じていることは、ドキュメントの準備、過去のデータの整備、タスク/スケジュール管理、内部統制の準備、経理のスキルセット拡充、監査法人との協議です。
ドキュメントの準備には想像以上に時間がとられます。過去の売上の作り方や実績の推移を、現行の事業計画に合わせて作ろうと思うと、なかなか欲しいデータがぱっと出てこなく、結局ひとつひとつを手作業で作成することになってしまったので、事前に過去のデータを整備しておくことが必要です。
経理のスキルセットに関しては、上場後に求められる基準はどんどん高くなっていきます。上場後すぐに必要な業務もあるので、上場前に採用する経理の方が肝かと思います。ある程度しっかりしたスキルセットの方を採用して、上場までに育成していくのが必須です。
監査法人とのコミュニケーションは事前にしっかり行っておくと会計監査がスムーズに進むので、協議の場を都度設定するのが重要です。
その他の留意事項
監査法人や証券会社にもそれぞれ特徴があるので、上場前に伴走してもらえるかなど、協力体制をしっかり見極めるのが大切です。協力体制を築けないと、自社側の体制を相当整備しないと、上場は苦しいものになると思います。監査報酬に関しては、年々単価が上がっていて、かなり高額になることを見込んでおいた方がよいと思います。
上場後の体制整備に関しては、前述した通り、事前に上場後を見据えてスキルや人数を検討した採用が必要です。
仕組みやツールに関しても、上場審査を乗り越えるための一時的な整備では意味がないので、上場後の運用まで踏まえた仕組みづくりを行いましょう。
上場を目指す中で、急な問題の発生、スケジュールの遅延など、予期せぬこともたくさんあると思います。大変な時に一番大切なのは、一緒に走っている仲間だと思いますので、どんな方を仲間にするのか、証券会社や監査法人といった外部も含めてどんな方と一緒に乗り越えていくのかが重要かと思います。
質疑応答
Q.現在のメンバー構成、役割と経歴を簡単にお伺いできますか。上場の体制を維持するのに必要なメンバーとはどういったメンバーで、それぞれどんなスキルセットを持っているほうがよいかを知りたいです。
A.現在は、経営計画のメンバー2名、経理のメンバー5名の合計7名です。経営企画の仕事としては、経営管理とM&Aがあります。経理は連結2名と単体2名で分けていて、私がマネージャーで、総勢5名です。連結は開示や連結、子会社の決算を担当していて、単体は債権、債務で1名ずつに分けています。
個人のスキルセットは様々ですが、経理においては、実務経験2年以上というのを一つの基準において採用活動をしていました。決算を完全に一人でやりきった経験までいかなくとも、決算の作り方やフローなどをイメージできることが重要かと思います。上場準備の経験、上場企業での実務経験があれば、よりよいです。
Q.予実管理のツールの選定では、どのように要件を決めましたか。
A. 現場のメンバー含め誰がみてもわかりやすいこと、予算の詳細まで見れること、カスタマイズなどの柔軟性があることを重視して選定しました。
Q.スプレッドシートで予実管理をしていく中で、限界がきたのはいつ頃ですか。
A.上場申請期の少し前くらいから、かなりつらかったです。当時は、スプレッドシートで予算を作成し、実績は会計システムで管理していて、予実の突合には別途スプレッドシートを作成していました。そのため、ざっくりと「この部署はこれくらい予実にズレがある」というのはわかるけれど、項目ごとの細かい突き合わせができない状態でした。当社は上場準備をしていく中で、予実管理システムの導入を検討し始めましたが、もう少し前から導入していれば、上場準備ももっとスムーズにできたのでは、というのが正直な感想です。
Q.年間での利益見込の運用がかなり大変だったと伺っています。どのような点が特に大変でしたか。
A.当社では各部から費用の見込と、売上の見込を出してもらいます。売上の見込は、SaaSビジネスのためある程度読みやすいのですが、費用はいつ発生するのかが、どうしても読みにくい部分があります。そのため、部署のマネージャーと1on1をして、内容を一つ一つヒアリングをして見込を作成していたので、工数面が特に大変でした。
Q.過年度の修正は、期間にもよると思いますがかなり大変なイメージがあります。どういった点を修正していくことになるんですか。
A.基本的には債権と債務が期首残になるので、債権、債務をどれだけ精緻に見積もるかです。例えば売上において、キャッシュベースで売上をあげたとなると、そもそもの会計の基準とはずれてしまいます。期首の売上の計算をし直した結果、期首の残高が変更されたこともありました。
債務も同じで、BSの修正が大部分になるかと思います。
私が入社する前は、基本的に顧問税理士が決算を作り上げていました。その期間の分が会計の基準からずれてしまっていたので、期首残を全部直しました。
Q.証券審査と東証審査の違いはありましたか。
A.ありました。証券の審査はどちらかというとローデータの中身の審査が多かったです。
東証の審査はガバナンスや組織、過去にあった事象に関してなど、個別具体的な内容を聞かれることが多かったです。なおかつ、東証の審査はスケジュールがきっちり決まっていたので、短期間の締め切りでたくさん質問事項が渡されて、その質問事項に対してひとつひとつ回答を作成しないといけなかったです。また、別で審査官が気になることがあった場合は、即座に答えなければいけないので、スケジュールが大変でした。
Q.毎月の予実報告は、どのような内容や会議体で行っていますか。また、予実報告や分析にあたって、現時点で課題はありますか。また、予算策定や予算・予実管理を行うにあたって、事業部側の負担を低減される取り組みはされていますか。
A.毎月の予実報告は、経営会議と取締会でしています。
予実の報告や分析の課題は、予実のずれが継続的に発生していることです。「DIGGLE」を導入してからは、細かい粒度で実績と予算を見られるようになったので、ずれている項目が都度わかるようになりました。
事業部側の負担を軽減する取り組みとしては、ある程度事業部に権限を持たせていることです。以前は、管理側が一括で予実を管理していたのですが、規模が大きくなってきたこともあり、管理側で全てを見ることは難しくなりました。各部にある程度権限を持たせながら、管理側でも牽制をしていく体制に変えたことで、若干各部の負担低減もあったかと思います。
Q.弊社は労働集約型で、経費の8割程度は人件費です。それでも各部門から予算を上げてもらう必要はありますか。また採用が読みづらく、これからの予実が不安です。
A.ある程度管理側で予算を読めるのであれば、管理側で予算作成をするのも一つかと思います。上場を目指すには、業績の推移を株主に示していかなければいけないので、精度の高さが重要だと思います。
採用の見込は、当社も難しいと感じています。採用は毎月進捗していくので、毎月、あるいは四半期に一度など、定期的に改訂していくのがよいと思います。
以上、セミナーの内容をお伝えしました。
実際にIPO準備期から上場後も現役で活躍されている廣島氏のお話から、上場前の予実管理の運用実態やそれがいかに大変であるかが伝わったのではないでしょうか。
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