稟議とは?稟議規定や書き方、ワークフローも徹底解説

会社に属する個人の権限だけでは決定できない事柄や、さまざまな重要事項について文書で決裁・承認を得る手続きである稟議。企業の活動では、様々な契約や取引に応じてこれらの決定は、通常、会議または書類によって行われます。本記事では、その稟議について必要性や決裁との違い、また種類や稟議規定や規定に記載する内容などを解説します。

稟議の必要性

稟議とは、会社のお金を使ったり、数十万から数億単位の取引の契約を締結するなど、個人の権限だけでは決定できない事柄など、さまざまな重要事項について担当者が案を作って関係者にまわし、文書で決裁・承認を得ることをいい、会議の時間などを省き効率的に決裁・承認のプロセスを進めることを可能とします。

稟議と決裁の違い

稟議(りんぎ)と決裁(けっさい)の違いとは、稟議は提案を示し、決裁とは決定の方法を示すものです。

稟議とは、担当者が提案した案件内容を複数の上長、役員など案件の大きさや種類に応じ、関係者に閲覧・確認してもらい、承認と決定をすることです。それに伴って作成された資料や書類を稟議書と呼びます。

一方、決裁とは、部下からの提案について決定権や権限を持つ上司などが決定をすることをいいます。それに伴って作成された資料や書類を決裁書と呼びます。

企業の活動では、様々な契約や取引に応じてこれらの決定は、通常、会議または書類によって行われます。

重要な決定では関係者を集めた会議で、決定に際して、判断のため、証拠が求められるものに書類が用いられます。ここで、書類による決定に使用される方法が稟議と決裁です。

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稟議の種類

それぞれ稟議の種類には下記のようにいくつかあります。

種別内容具体的な目的
捺印・契約稟議各種契約を結ぶ時の稟議取引先との契約締結など秘密保持契約業務委託契約業務提携契約等
購買稟議物品・備品の購入稟議PCやディスプレイ、システム備品の購入からソフトウェア購入時などに必要
会議費・交際費稟議取引先との会食代や贈答品の購入費用の稟議会議費・交際費の申請
その他稟議旅費交通費など出張交通費、宿泊費の申請など

このようにそれぞれ、会社のお金をそれぞれの目的に沿って使う場合はそれぞれの種類別に各種稟議の種類に応じて稟議の申請を行い、承認・決裁のフローを通して、初めて購買や取引が行えます。

また、これら稟議のルールとして、「稟議規程」を作成し、その中の「決裁基準表」を基に運用を行う必要があります。

稟議の種類や金額によって決裁者や決裁フローが異なります。

稟議規程とは?記載する内容は?

稟議規程とは?なぜ必要?

稟議規程について説明する上で、社内規程の必要性をに簡単に説明させていただきます。

企業の構成員が数10名前後のようなIPOの検討段階にない場合は、CEOや管理長の言動自体がルールでも問題はないと思います。しかし、従業員が増加し、組織が拡大すればルールを明文化しておく必要があります。そこで「社内規程」というルールが必要となります。

社内規程全般の説明については、別の機会に改めて説明させていただきます。

それでは、今回は稟議におけるルール「稟議規程」について説明します。

こちらの規程の内容とは、稟議事項の基準および稟議の手続きを定めたものです。稟議規程は、職務権限規程等の中に定める場合と、稟議規程だけを抜き出して定める場合があります。そもそも稟議とは、個別案件の意思決定にあたり、職務権限の行使を統制する手段であり、組織的かつ迅速な経営活動が行えるように、適切な内部統制を前提としています。稟議規程を定めることで、企業の意思決定の過程が明確になり、業務の透明性や円滑性を確保できます。稟議規程を定めることで、稟議制度を運営しやすくなるとされています。

定めるべき項目

稟議規程に記載する内容は、規程の総則として「目的」「定義」「稟議の原則」「稟議事項および決算基準」などについて記載します。「起案」を行う担当者や順次回覧する関係者の詳細を記した「回議」、承認過程の段階を記した「決済の種類」など、稟議の流れで必要となるルールを記載しましょう。

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稟議の全体フロー

稟議金額別の承認者

稟議の金額によってそれぞれ規程を作成することが一般的となります。

職務権限規程などで職務に応じた決裁基準を設定し、稟議項目・金額に応じて規程を作成することが一般的です。

金額別の決裁基準の規程例

金額承認者
10万円未満課長(マネージャー)+総務部
10万円以上100万円未満部長+課長+総務部または経理部
100万円以上300万円未満本部長+部長+総務部または経理部
300万円以上2,000万円未満役員+本部長+部長+総務部または経理部
2,000万円以上取締役会(取締役、監査役)

もちろん金額が高くなれば、職務責任が大きい役職者の承認に加えて、承認する関係者が多く設定されることが多いようです。

稟議のワークフロー

稟議はどのタイミングで作成し、また、作成する上で必要なタスクはどのようなものがあるのでしょうか。

購買稟議・会議費・交際費稟議等、その他(金額発生)のケース

①支払い先に見積もり依頼を行う

稟議にかける商品やサービスについて、受注業者に見積もりを依頼します。金額などを比較するため、複数の業者に見積もりを依頼するのが一般的です。業者からの見積書が自社の予算・要望に合わない場合は、改めて見積もり依頼を行います。

②稟議にかける

稟議書を決裁権限を持つ関係者に回覧し、承認を求めます。書類内容の不備や内容の誤り等あれば、その稟議書が差し戻しされる場合があります。稟議をスムーズに進めるために、稟議内容事前に上司に伝え、理由を説明するなど、事前の相談や根回しも必要となります。また、物品購入では、多くの場合コストパフォーマンスがネックとなるため、稟議を通すのに説得力のある金額を記入することが重要です。稟議書を作成する前に、直属の上司に購入可能な金額を確認するのも有効です

③発注

稟議が承認された後に、取引相手に発注をかけます。

④納品

発注した製品・サービスを納品してもらいます。

⑤請求業務

請求書・納品書を受け取り、社内では経費精算や支払い申請を経理財務部門への申請を通して、先方に支払い手続きを行います。

⑥稟議書を保管する

決裁された稟議書は、管理部門で保管します。稟議書の管理方法には、「種類別に分けて年度ごとにファイリングする」「電子化してサーバー上に保管する」などの方法があります。

捺印・契約稟議のケース

①契約書の法務確認

相手先の企業担当者と目的(業務委託、業務提携、技術提携、業務委託等)に応じた内容の契約手続きとして、契約書を取り交わすのですが、その契約書の雛形を自社で用意するのか、相手方が用意するのかによって契約書面に書かれている項目内容が異なります。

そこで、相手方より雛形を受け取り契約締結を行う場合は、その雛形を法務担当者に契約書面を確認してもらいます。確認後、項目の中で法務リスクと取れる項目については先方に依頼し、内容修正の依頼をしたり、反対に、自社の雛形を先方にお渡しする場合は、先方から契約書内容の修正依頼を受けたりします。

それらのやり取りや契約内容の確認は自らでするべきではなく、法務担当の専門部署・人材にお願いすることで、法務リスクを軽減します。そのため、必ず法務に確認することが必要となります。

②稟議にかける

稟議書を決裁権限を持つ関係者に回覧し、承認を求めます。書類内容の不備や内容の誤り等あれば、その稟議書が差し戻しされる場合があります。稟議をスムーズに進めるために、稟議内容事前に上司に伝え、理由を説明するなど、事前の相談や根回しも必要となります。また、物品購入では、多くの場合コストパフォーマンスがネックとなるため、稟議を通すのに説得力のある金額を記入することが重要です。稟議書を作成する前に、直属の上司に購入可能な金額を確認するのも有効です

③承認後、必要署名・捺印(実印・銀行印・会社印等)し、先方と契約書の締結

稟議が承認された後に、契約書2部に代表者の署名と必要な種類の印章(会社印・銀行印・代表印)を上長や担当部門(総務部等)が捺印し、先方に署名・捺印済みの契約書を送ります。

④締結後の署名・捺印済み契約書本体・データを保管

双方の会社の代表者の署名捺印され、契約が締結された契約書本体、またはデータを契約書などの重要文書を管理する総務部などの担当部門に共有し、データを保管します。

⑤稟議書を保管する

上記「購買稟議・会議費・交際費稟議等、その他(金額発生)のケース」の⑥と同様稟議書の保管を行います。

稟議書に記載する項目

①起案日・起案者名

いつ、誰が起案したものなのか分かるように、稟議書を作成した日の日付、起案者名を記載します。起案者名の他、部門・部署、社員番号などを明記しましょう。

②申請番号、決裁番号

稟議書は、会社の管理上、申請番号や決裁番号の番号を管理するケースが一般的です。社内のフローに従って、取得した申請番号を記載します。同様に、承認され、決裁された後は決裁番号も記載しましょう。

③件名

どのような内容で稟議を申請するのか、「件名」として明記します。件名は簡潔に記載しましょう。

④稟議の申請内容

申請内容についても、なぜこの稟議の申請が必要なのかを簡潔にわかりやすく記載することが重要です。稟議内容の必要性と費用対効果、他の商品やサービスと比較した優位点(機能が優れている、他社製品・サービスと機能は変わらず価格が安い、等)を、具体的な内容を交えて明確に記載しましょう。リスクを伴う場合は、解決策も併せて記載し、承認者の理解を得られるよう説明することを心がけましょう。

具体的に以下内容を箇条書きにまとめると良いでしょう。

  • 承認してもらいたい内容(物品購入であれば物品名、購入先の企業・業者名、仕様、購入時期など)
  • 申請理由(目的、必要性や意義など)
  • 稟議内容が実行された場合の効果、メリット
  • 稟議が承認されない場合に生じるリスク

⑤金額(予算の内訳、支払い条件)

製品・サービスの総額を記載し、支払予算の内訳や支払い条件なども、併せて記載します。

⑥承認可否・承認者コメント欄

承認の可否の結論と、コメント欄には、承認者が承認する理由や承認する上での付属情報、承認しない場合は理由を記載します。コメント欄を設けることで、回覧時の情報共有がしやすくなるほか、差し戻された理由が明確になります。

⑦押印欄

稟議書には、承認された証明として、承認者の押印欄を設けます。承認する場合は、左から右へ下位職位者から押印するのが一般的です。押印欄を設けることで、決裁状況を把握しやすくなるでしょう。

添付資料について

必要に応じて、稟議の申請事項に関する見積書や商品・サービス説明書などを添付します。稟議書にも、添付書類がある旨をひと言添えましょう。

IPO前後期の稟議規程・稟議フローの必要性

IPOを目指す企業にとっては、稟議規程や稟議の仕組みに関わらず、前述の通り一通りの社内ルール・規程の整備が必要となります。さまざまな規程の特にIPOの審査においては、社内規程は1年以上の運用実績が必要となっており、上場ターゲットとしているIPO予定年度の直前期(1年前)から、1年間は運用されていなければいけません。

従って、この直前期の1年間を実際に運用するためには、少なくともIPO予定年度の2、3年前から整備を開始し、仮で運用を始めた中で、規程などの制度やルールに不備があったり、内容の齟齬を見直す期間も必要となります。

IPOを検討する段階に入ったら、コーポレートガバナンスの構築などと併せて準備や整備に取り掛からなければならないことにご留意ください。

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IPO準備における予実管理と内部統制の傾向と対策+α

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