原価計算の種類と予実管理の実務④
本記事は原価計算の基礎を4回にわたって解説していくシリーズの最終回、原価の予実管理実務についてです。
前回の記事はこちらから。
原価の予実管理実務
原価部門の予算策定実務
前回記述の通り、原価計算は消費量×単価の計算です。
ここでは全部原価計算の予算立案を想定します。
数量の立案
まず、予算の生産数量の立案がなされます。
- 当期の販売計画を事業部/販売部門にて立案
- 販売計画をもとに、当期の生産計画/在庫計画を生産部門にて立案
- 下流工程の半製品所要量を元に、前工程の生産数量/在庫計画を立案
- 外部から調達する原材料の購買計画を立案
単価の立案
次に、予算の単価の立案がなされます。
材料費
- 外部購買原材料の予算単価を決定
- BOM(部品表)で設計された数量を原材料単価とかけ材料単価を決定
経費
- 各工程生産数量から、各工程の必要経費総額を立案
- 工程ごとに経費を集約し、製品ごとに経費を配賦
- 各工程ごとに配賦経費を積み上げ経費単価を決定
こうして工程ごとに立案された生産数量×単価で予算の製造原価が立案されます。
原価部門の予実分析実務
変動費(材料費を想定)の分析
変動費は単価×数量で標準原価が組まれています。
ある製品1単位を製造するのに1Kgあたり1,000円の原材料Aが10kg必要として標準原価を設定しており、
実際には15kg使用し、一方で材料Aの購入単価はボリュームディスカウントで900円/kgで購入出来た場合を想定します。
計算結果は10,000円(1,000円/kg×10kg)-13,500円(900円/kg×15kg)=▲3,500円の不利差異として認識できますが、実務上は、歩留まり(数量差異)が悪くなったのか、原料単価が高騰したのかを管理する必要があります。
特に、上記設例の場合は計算を2工程に分けることが望ましいです。
原材料受入時の差異把握(単価差異)
材料受入時には、計画上の単価と実績受入時の単価を比較し受入差異を認識します。
15,000円(1,000円/kg×15kg)-13,500円(900円/kg×15kg)=+1,500円(有利差異)
製品製造時の差異把握(数量差異)
製品製造時には、製品1単位製造するにあたっての計画上の必要材料量と実績の実際投入量を計画上の単価を用いて比較します。
10,000円(1,000円/kg×10kg)-15,000円(1,000円/kg×15kg)=▲5,000円(不利差異)
上記のように単価差異と数量差異に分けて分析することで、より正しい意思決定を導くことが出来るようになります。
(設例の場合は、歩留まり悪化の要因を把握し改善につなげる事が求められます。)
固定費(経費を想定)の分析
つづいて固定費の分析方法についてです。
前回解説のとおり、固定費を「発生総額」として捉えるのが直接原価計算、「単価」として捉えるのが全部原価計算でした。
分析方法もこの二通りのどちらを管理会計上採用しているかにより異なります。
直接原価計算における固定費分析
直接原価計算は固定費の発生期間総額を捉え、製品1単位あたりを構成する単価とはみなしません。
そのため、通常の販管費管理と同様に固定費も扱うこととなります。
例えばある会計期間で製品100個を製造するのに、電力費の計画を10,000円として組んでいたとします。
そして実際にはこの会計期間では製品を200個製造され、電力費の実績は15,000円かかったとします。
直接原価計算の場合、製品あたり単価を加味する必要はないため
10,000円-15,000円=▲5,000円(不利差異) としてただ認識するのみとなります。
(財務上はこの後、固定費分を調整する処理が必要となります。この財管差の事業管理上の管理内とするかは会社により分かれます。)
全部原価計算における固定費分析
全部原価計算は、固定費を製品1単位あたりを構成する単価として捉えます。
上記直接原価計算の設例で同様に分析した場合、
20,000円(100円/個×200個)-15,000円=+5,000円(有利差異)
直接原価計算の時とは反対に有利差異として捉えられることとなります。
この固定費の有利差異は、2つの要素に分解することが出来ます。
(教科書的にはシュラッター図を描いて3要素(操業度差異/能率差異/予算差異)に分解しますが、今回はより実効的な分析を行います。)
1.増産/減産差異(20,000円(100円/個×200個)-10,000円(100円/個×100個)=+10,000円(有利差異))
発生経費額を固定とした場合、同じ10,000円でより多くの製品を製造できている(効率的に生産出来ている)と捉え、
本来数量に比例し20,000円かかるところ10,000円に抑えられているため+10,000円の有利差異と算出します。
2.発生経費差異(10,000円(100円/個×100個)-15,000円(発生実額)=▲5,000円(不利差異))
一方で、実際は10,000円の予算設定値に対し15,000円の実績発生額であるため▲5,000円の不利差異と算出します。
こちらは直接原価計算と同様の分析になります。
この二つの要素を組み合わせた分析として言える事は、増産/減産差異+10,000円、発生経費差異▲5,000円と
増産による有利差異の範囲内に発生経費の不利差異を抑制できているため問題はない。という分析になります。
製造間接費は固定的な要素が大きく増産時の結果はあまり分析指標として参考になりませんが、減産傾向にある
事業などでは反面「単価を維持(=利益を維持)」するため減産不利差異と同額の経費コストダウンを目標とさせるなど、直接原価計算では見えなかった事業の利益を管理者に意識させる経営が可能になります。
もちろん、シュラッター図のように更に製造間接費中の変動費率などを分解し操業度差異と能率差異を算出できた方が、より製造の担当者としては納得感のある分析となります。
一方でここまで落とし込んだ分析を運用として敷くことは難しいという実態があり、上記のような分析が簡単で実効的な例となります。
以上、原価計算の基礎についてシリーズで解説していきましたが、いかがでしたでしょうか
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著者プロフィール
冨田貴大
1991年生まれ、愛知県名古屋市出身。
名古屋大学経済学部を卒業後、富士フイルム株式会社にて勤務(2014年~2021年)、経営企画/経理部にて原価計算を中心とした管理会計や単体会社の経理処理/財務諸表作成を経験。