予実管理とは。ツール選定より意義、進め方と運用ポイント解説。

本記事は井上伸也氏による寄稿です。井上氏はミクシィ、ランサーズ、DMM.com等で一貫して、経営企画領域をご担当された後、現在はフリーランスとして、経営企画の顧問業務からハンズオン等、企業の経営企画を支援されています。今回は、予実管理経験の抱負な井上氏に、「予実管理とは。ツール選定より意義、進め方と運用ポイント解説。」に関する記事を寄稿いただきました。

1. 予実管理とは。求められる意義

 予実管理とは、期初に立てた事業計画が計画通り進んでいるのか、財務数値を元に予算の乖離を分析し経営活動のモニタリングと持続的な改善及び軌道修正をしていく一連のサイクルを指します。

 ここで重要なのが、予実管理は一見経営企画だけが行っているように思えますが、実は事業部門や経営管理部門の協力なしには出来ないものです。事業分析はKPI設計と収集のオペレーションがきちんとされていれば数値は拾える一方で、事業の定性情報収集やアクションプランの修正は事業サイドと一緒に行わないといけません。また月次決算が締り、財務分析を行い、経営陣へのレポーティングは早いにこしたことはありません。そのためには決算の早期化やワークフローの持続的改善をする必要があり、経理と総務の協力なしには予実管理をいつ迄経ってもアップデートはされません。

 予実管理は経営に関わる全ての人が意識を持たないといけませんし、経営に関する業務に携わっている人と協業をしていくのが本質であるといえます。

関連記事:
失敗しない、予算計画の立て方【予実管理の第一歩】

2. Excel(Google Spread Sheet)で管理しても大丈夫?

2-1. Excel管理で予算管理を行うメリット

 個人的な見解になってしまうのですが、ExcelとGoogle Spread Sheetの関数に関してはそこまで大差ないように思えます。強いて違いを挙げるならばExcelの方がビジュアルの表現が豊かな点になります。例えば、損益分岐点分析のグラフをGoogle Spread Sheetでは作り込みにくかったり、表現の幅ではExcelに分があるため、予実管理レポートのグラフで使用する場合はExcelの方が見栄えが良い点がメリットになります。

2-2. Excel管理で予算管理を行うデメリット

予実管理は予算執行責任者から数値集計をする必要があるのですが、Excelで行う場合、ファイルを跨いで作業が発生するのため、集計コストが掛かります。各部門の入力用と集計に使う出力用のファイルを分けるので(他部門の人件費や役員報酬などのセンシティブな情報にアクセス出来ないようにするため)、ファイルの集計作業がどうしても手間が掛かる点がデメリットと言えるでしょう。

2-3. Google Spread Sheetで予算管理を行うメリット

逆にExcelのデメリットを補えるのがGoogle Spread Sheetを使うメリットとも言えます。予実の集計をする際にIMPORTRANGE関数を活用すれば、入力シートから出力シートへリアルタイムで数値が更新されるため、Excelをフォルダに格納し、それぞれのExcelファイルを開き、一つ一つを集計し、アウトプットファイルに転記する必要がないので、工数が激的に減る点がメリットになります。

2-4. Google Spread Sheetで予算管理を行うデメリット

一方でリアルタイムで数値を更新できるため、集計作業に入った時、勝手に数値を更新されてしまうケースがあります。私自身の経験でも集計作業が終わり、会議報告用にパワポを作っている際にいつの間にか数値が変更され、何度も修正作業をせざる得ないことが多々有りました。そのため、実績や見込み値入力のタイムリミットを設けることで対応するしかありません(それでも破る人はいますが…笑)。

2-5. ExcelでもGoogle Spread Sheetでも、意義を満たせばOK

予実管理にツールやSaaS Productを使わない場合、ExcelとGoogle Spread Sheetを併用するのが良いと思います。自身が予実管理の業務に携わっていた時は毎週ないし月初に予実管理の会議を開催しており、双方のメリットを組み合わせて運用をしていました。

  • 毎週月末の着地見込みの数値入力(Google Spread Sheet)
  • 出力用のシートへ数値の集計(Google Spread Sheet)
  • 数値の加工(Excel)
  • 報告用資料の作成(Power Point)
  • 報告用資料を元に予実管理会議を実施

上記の流れに沿って数値集計にはGoogle Spread Sheet、数値の加工には表現が豊かなExcelを活用し、会議報告にはパワーポイントで資料を仕上げていました。

3. 予算管理テンプレートをダウンロード

ここまで予実管理の概念とExcelとGoogle Spread Sheetの運用について記載してきましたが、予実管理のテンプレートをご参考までにこちらからダウンロードして頂けます。

4. 予算策定の進め方

① プロジェクトの準備

12月に予算の全体像を仮に作りこみ、市場環境分析、KPIの設計、部門設計、追加&削除勘定科目の洗い出し、前年度の実績精査、管理会計の設計、財務モデリング、予算策定の進め方(e.g. トップダウン型 vs ボトムアップ型などのガイドライン)を準備してCFOとの摺合せを年内にやっておくと後々楽になります。

② プロジェクトの合意

スケジュール、プロジェクト参加者(部長/マネージャー/KPI責任者等)、取締役会までの承認プロセス、各予算執行責任者の範囲決め、管理会計の設計、本社費配賦、投資計画、目標トップラインとボトムライン辺りを取締役陣とすり合わせを実施します。

③ プロジェクト開始とブリーフィング、ガイドラインの提示

取締役陣と合意の取れた内容を精査し、各部門長や責任者と個別で説明の時間を設け、予め作っておいたモデリングのシートを予算執行責任者へ渡し、事業計画作成のサポートをしておくと、非常に進めやすくなります。

④ 各事業部門と管理部門の事業計画作成の壁打ち

図表の通り進める場合、大切なのは各事業ドライバーが何にあたるのか、ビジネスモデルやプロダクトの要諦を理解したうえで各予算執行責任者と議論をしないといけません。Product Manager目線だとFP&Aはプロダクトの事をよく理解しないまま予算策定を進めようとする、という声もたまに聞こえたり、また管理部門とはコスト圧縮や投資インパクト(e.g. ツール導入後の生産性Before & After)あたりは重要なアジェンダになります。

  • 事業サイドに対しては競合動向や事業環境の情報提供、戦略の筋、KPIの議論
  • 管理部門に対しては間接費、大型の投資、管理会計の設計を議論

上記を意識しながら予算と戦略の壁打ちをしていきます。

⑤ 取締役陣レビュー

これらを持って毎週取締役陣⇔各予算執行責任者とで事業計画のレビューを行っていきます。最初は粗々だった計画も回を重ねる度に課題が浮き彫りになり、次のラウンドで宿題プラスαを持ってくることで精度が高まっていきます(会社によっては集中合宿までやるところもあるみたいです)。

⑥ 財務モデリングのダブルチェック

④と⑤をやりつつ、経営企画は毎週ブラシュアップされる予算計画をアップデートしないといけません。その度に財務モデリングを作り込みますが、如何せん職人芸になりやすいのが悩みのタネでもあります。そこでもう一人の経企メンバーにお願いをして、エクセルのダブルチェックを毎日やると良いいでしょう(居なかったら財務でもOKです)。やり方としては一日数回ファイルの更新をして、”日付け+version○○”という形式でこまめに残しておけば、何か間違いを発見した時のリスクヘッジにもなります。過去に私もたくさん失敗をしてきたので、変更箇所をメモに残してバージョン管理は徹底するようにしています。

⑦ エクセルの成形

様々なシナリオに応対した財務モデリングを磨き上げ(例えば、楽観/ベース/悲観ケース)、バリュードライバーの精査をして、トップラインやボトムラインの解像度をグッと上げていきます

⑧ 最終レビューと取締役会ストーリー

数値計画と取締役会の承認に向けたストーリー作り。どうやって話しを持って行こうか、過去の数字対比、戦略の肝などポイントになります。

⑨⑩ 付議資料作りと取締役会準備、役会承認

最終レビューでOKの出た事業計画を精査して、経営計画書に落とし込み、取締役会に臨みます。その際予算付議の承認を見送られたら、臨時取締役会を実施することになります。

5. 予実管理を運用するポイント

5-1. 年間予算のスケジュール

3月決算の会社では次年度予算は3月の取締役会、下半期の修正予算は9月の取締役会にて承認するかと思います。4月に社内で予算共有、8~9月に下半期予算修正期間、10月に下半期の予算共有、1~3月に次年度予算策定期間(4.予算策定の進め方参照)、という流れになります。

こう見ると1年の内半分弱は予算策定に費やす事となり、改めて事業計画を立てることに経営陣がリソースを割くかイメージが湧くかと思います。
ご参考までに下記の定常型とPRJ型は経営企画が担う業務になります。

・定常型:予算策定や予実管理、管理会計業務、各会議体運営、IR、事業環境分析
・PRJ型:経営戦略立案、ファイナンス、新規事業立ち上げ、プロジェクトマネジメント等

5-2. 月次予算の運用

定常業務の合間や同時並行でプロジェクト型業務をスポットで随時回している事が多く、定常業務(主に予算策定と予実管理、管理会計業務)にリソースが取られてしまうことが経営企画の悩みの種でもああります。

予実管理を①月次の運用と②週次の運用(会議)をするのが一般的かと思います。予実管理の関係者をA.事業サイド、B.経営企画、C.管理サイドと分けて、上記の図に沿ってご説明していきます。

5-2A. 月次の運用について

月次決算が締まる前後の第一週目に開き、事業サイドからは事業の進捗やKPIなどの振り返り、前月のトピックス、そして当月の施策などを報告。経営企画はP/Lの速報値や四半期単位での着地見込み報告。管理部門からは前月のトピックスや当月の施策を報告。またそれぞれOKRやMBOの運用をされている場合、それぞれの指標の振り返り報告でもいいと思います

 5-2B. 週次の運用について

月次運用との違いは月末の着地見込みを週次でモニタリングをしていく点になります。事業サイドからは売上と各種KPIの進捗及び見込み、施策の状況を報告。経営企画はP/Lの進捗と着地見込み(事業貢献利益~本社費配賦後営業利益まで)、損益分岐点の着地見込み等の報告。また予実管理会議で出てきた合意事項の形成及び役員からのフィードバックによるネクストアクション/宿題の取りまとめをしていき、翌週の会議にてToDoの確認をしていきます。

5-3. クオーター予算

クォーター予算を意識するの四半期毎にIRを出さないといけない上場企業かIPO準備中の企業になります。特に、投資家向けに出す業績予測(=ガイダンス)が株価に影響を与えるため、四半期/半期/通期での予測がとても重要になります。そのためには月次決算が締まった後の予実管理だけではなく、四半期、半期、通期のフォーキャストモニタリングをして、予算達成をコントロールしていくことが重要です。

5-4. 予実のズレの考え方

予実のズレでよく起こるのが採用教育費と人件費になります。採用教育費は入社のタイミング次第で計上月がズレてしまいます(エージェントを使っている場合)。新卒社員は毎年4月に入社するためずれることはないのですが、中途社員の場合、前職を退職する日をコントロール出来ません。そのため中途社員の人件費もそれに伴い影響を受けてしまいますが、月次で必ずミートさせるより、四半期単位で調整するように心がけても良いかもしれません。

5-5. 経営会議へのレポート

月次で運営されている経営会議へのレポートを考える際、会議間の関連性を整理すると良いと思います。

前述した予実管理会議を週次と月次で行い、P/Lや各種KPIの進捗を追います。その次に月次決算が締まり、フォーキャストとの対比(Forecast vs Actual)で見込みの精度を確認。財務会計を基に管理会計レポートを作成し、経営会議に臨みます。経営会議では月次の財務会計及び管理会計の予実、事業KGI・KPIの再確認、経営重要事項の議論、取締役会への付議確認等をするのが一般的です。

6. 予実管理で使えるExcel(Google Spread Sheet)関数

予実管理で関数を使うのは必須ではありつつも、個人的にはシンプルな設計にした方が良いと考えています。関数を複雑に作り込みインプット→アウトプットが綺麗にハマればとても清々しい気持ちになります。ただし、ファイルが重くなる点と後任者が継ぐ際に、秘伝のタレ化してしまい、ファイル解読や運用のコストが高くつくことがあります。その上で普段私が主に使用している関数は下記の4つです。

  • IF/IFERROR関数(予算対比)
  • SUMIF関数(変動費と固定費の分解)
  • CHOOSE関数(シナリオ分岐)
  • IMPORTRANGE関数(Google Spread Sheetでインプットファイルからの集計)

一時期様々な関数を試してファイルを複雑にすることが予実管理の高度化や仕事をした気になった、と勘違いをしていた時もあるのですが、後任者への引き継ぎを考えたら業務の平準化をすることが大切なため、極力関数を多用しないように意識するようになりました。

7. Excel(Google Spread Sheet)を使った予実管理のまとめ

複雑な関数を駆使してエクセル作業に没頭するのは個人的にも好きなのですが、予実管理の目的は財務数値を元に経営者の意思決定支援をする事です。後任者への引き継ぎを鑑みると、述した通りシンプルなファイルに仕上げるに越したことはありません。

また事業数が拡大してくると、どうしてもExcelやGoogle Spread Sheetでの管理に限界が来てしまいます。私の支援先で100近くのポートフォリオ経営をしている会社の経営企画の方達は予実管理と管理会計のExcel作業だけにリソースを取られ、本来の目的である経営者の意思決定支援にリソースを割けていない、といったケースもあります。そのため、ある程度の事業規模になったらツールの導入検討をしてもいいかもしれません。

8. 最後に

予算策定から予実管理のお話しをさせて頂きましたが、こちらのnoteにて事業計画立案/予実管理/管理会計/フォーキャストモニタリングなど、経営管理高度化のご参考となるテンプレートも販売しております。
またDIGGLE社主催の予実管理に関するセミナーが実施されておりまして、私のパートは定期開催をさせて頂いております(本寄稿を更に深堀りしたセミナー内容になっています)。その場でのご質問や経営企画業務のご相談も無料で行っておりますので、もしご都合が付きましたらご参加頂けますと幸いです。

セミナー詳細:https://diggle.jp/insights/events

著者プロフィール:
井上伸也

リクルート(広告営業/新規事業立ち上げ)→Google Japan(広告企画/事業戦略)→慶應MBA・起業→ミクシィ(経営企画)→ランサーズ(経営企画)→DMM.com(社長室/新規事業開発)→経営企画のフリーランスとして独立。独立後、ベンチャー〜上場大手企業の社長や経営企画の右腕として、経営戦略策定・予算策定・経営管理体制強化・IR/ファイナンス・新規事業企画〜リサーチ、特命業務を幅広く支援中。

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