仰星コンサルティング本田氏を招き、「IPOに必要な上場申請書類等作成の勘所とは?」をテーマにセミナーを開催しました(後編)

当記事はセミナーレポートの後編となります。

前編はこちらから。

先日、DIGGLE株式会社は、仰星コンサルティング株式会社のパートナー公認会計士・本田直誉氏をお招きして、「IPOに必要な上場申請書類等作成の勘所とは?」をテーマにセミナーを開催しました。

この記事では、同セミナーの内容を前・後編の2回にわたりご紹介いたします。後編では、上場申請書類のポイントと作成のスケジュール例、各書類の内容などについてのお話をご紹介します。

上場申請書類のポイントとスケジュール例

上場申請書類の作成のポイントについて説明します。

1つ目のポイントは、早期に着手することです。Iの部やIIの部、グロース市場では各種説明資料になりますが、そちらはボリュームがあります。各項目ごとにあらかじめ分担を決めた上で、長期的なスケジュールを立てて、早期に着手するのが効率的です。いずれの書類も、過去のデータが記載事項の中心になります。上場準備を開始してから、早い段階でデータの整備や管理を始めていくことが、申請書類作成を円滑に進めるポイントです。

2つ目に、書類間の整合性です。のちほど説明しますが、上場申請の各書類で記載内容が共通している項目があります。あらかじめ整理した上で同時に作成していくと効率的です。

3つ目に、書類のブラッシュアップです。グロース市場では各種説明資料が上場審査に利用されるので、正確で説得力のある記載が求められます。そのため、上場審査の質問に備えて各部門で分担して、書類を作成したあとに、プロジェクトチームで書類の各記載項目について幅広く解釈して、記載内容を充実させていくのが重要です。

4つ目に、外部リソースの活用です。必要に応じて印刷会社や外部コンサルタントの活用によって効率的に書類作成を進めることが重要です。

印刷会社は、プロネクサスや宝印刷などがあります。こちらは作成した書類の様式や表現、整合性をチェックしてもらえます。他にも各種説明資料(各説)の作成の手引きや作成ツールの提供などのサポートも受けることができます。

外部コンサルタントには、書類作成を依頼することもできます。社内だけでの対応が難しい場合は、依頼するのも一つの方法になると思います。

次に、上場申請書類の作成スケジュール例について簡単に説明します。上場申請書類については、突貫工事で直前にまとめて作成することもありますが、ここで説明するのは、ある程度余裕を持ったスケジュール例です。

まず書類作成の分担は、N-2期の第2四半期頃に決定をして、そのあと書類の作成に必要な情報等を収集して、N-2期中に完了させるのが理想的です。

そのあと、短期調査の課題対応などがあるので、その中での論点整理に含まれることになりますが、そちらの対応をして、N-1期の第2四半期頃を目安に対応を完了させます。

それと並行して、上場申請の書類作成をN-2期から始めていきます。

例えばIの部の経理の状況は、注記項目についてはこの段階で作成することも可能です。N-3期の数字を使って作成の練習をすることが可能ですので、余裕があれば始めていくのが理想的です。

また各説の事業内容も、この時点で一旦作成可能と思います。

そのあとの主幹事証券の審査については、大体N-1期の第3四半期頃から始まって、申請書類自体は直前期の第1四半期、株主総会が終わるころまでに作成を完了させます。そのあと上場申請をして、上場が承認されると有価証券届出書を作成する流れになります。

Iの部・IIの部(各種説明資料)の概要

続いて、Iの部・IIの部の概要について説明します。

Iの部は、全ての取引所に共通して提出を求められるもので、上場審査において重要な申請書類の一つです。

根拠法令は、企業内容等の開示に関する内閣府令です。開示対象者は投資家で、不特定多数に開示されますので、誰でも見ることができます。

会計監査については、経理の状況が対象となります。

IIの部は、グロース市場では各説になります。会社全体の概要を多角的に記載したもので、上場審査の中心となる重要な申請書類の一つです。

根拠法令は、証券取引所の有価証券上場規程です。

開示対象者は、証券取引所や証券会社のみで、上場審査だけに利用されるため、開示は限定的です。また、会計監査の対象外となります。

Iの部は他社事例を参考にできますが、各説は参考にできないため、作成で苦労することが多くあります。

Iの部の内容

続いてIの部の内容です。

Iの部と有価証券届出書、目論見書、有価証券報告書は、基本的にほぼ記載内容が同じです。そのためIの部を作成すると、有価証券届出書や有価証券報告書の内容に引き継がれていきます。最初に作るIの部の記載内容は、そのあと関係する継続開示を考慮して作成する必要があります。

Iの部は数字による開示部分が多いので、決算が確定したあとに集中的に処理することになります。そのため、関連する資料については、事前に収集しておくと効率的です。

各種説明資料の内容

各種説明資料(各説)について説明します。

IPOの短期調査で抽出された課題に対応することで、各説で記載が求められる事項の対応については可能と考えられます。ただしほかの書類と共通する内容を同時に作成するなど、効率的な対応をしていくのが重要です。

ここでは作成のポイントとして、事務フローと仕入、販売、外注等について説明します。

まず事務フローについては、主な事務フローを図解することが求められます。こちらは内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXで作成した業務フローを利用できます。その際に関連する規程、例えば売上に関する業務フローであれば、販売管理規程と整合していることや、実務でルール通りに運用されていることが審査の対象になりますので、整合性がとれているか、事前に確認しておく必要があります。

次に、仕入れ、販売、外注等です。主要な仕入品で代替性に乏しいものがあれば、その内容を説明した上で、安定確保の取り組みを記載していく必要があります。例えば直近で言うと、コロナ禍であったり、ロシアによるウクライナ侵攻で仕入品の調達にさまざまな影響が出ているかと思いますので、原材料や商品の安定確保について、上場審査で質問される可能性があります。

他には、上位5社の状況について、具体的には取引開始の経緯や継続的な取引方針などの説明が求められます。また、上位5社に関連当事者が含まれていると、上場審査に時間を要する可能性があります。

続いて、コーポレートガバナンスです。こちらの項目につきましては、Iの部やコーポレートガバナンスに関する報告書の記載項目と重複する箇所がありますので、記載内容はまとめて検討すると効率的です。

コーポレートガバナンスに関する報告書は、Web上で公開されています。Iの部とあわせて他社事例を参考にすると、効率的に作成できるかと思います。ただし、全ての項目を網羅できるわけではないので、ご注意ください。

続いて、リスク管理とコンプライアンス体制です。こちらの項目は、外部専門家との連携状況であったり、法令等の改正動向の把握方法や社内への周知方法、リスク管理やコンプライアンスに関する会議体を開催している場合には、その概要を記載します。

上場準備を始めた段階では、こちらの項目については整備できていない会社も多いかと思います。対応方針を決めた上で記載内容を検討して、具体的な対応を進めていくことになるかと思います。

続いて、オーナーが関与する会社等の状況と、関連当事者取引について説明します。

まず、オーナーが関与する会社等の状況です。親族の会社との取引などは、審査で一番指摘が多く、上場承認に至らないケースが多いのが実情です。そのため、最初の上場準備スケジュールでも触れましたが、早い段階でオーナーが関与する会社との取引は解消する必要があります。

次に関連当事者取引です。Iの部では、重要性のある取引だけを関連当事者取引として注記しますが、ここでは重要性という概念がなく、全ての取引を記載する必要があります。該当する取引を、網羅的に把握できる体制を構築していることが重要となります。

実際の事例でよく漏れるのが、オフィスを借りている場合に、社長がから連帯保証をしているケースがあります。そういったところの把握が漏れていることがありますので、ご注意ください。

次に、従業員・労務の状況についてです。

まず組織図、最近一年間の採用・退職者数です。退職者数は、業種によっては非常に多い会社もあるかと思いますが、退職者数が多いことをもって、上場審査上マイナスになることはありません。小売業とかそういった店舗であれば、アルバイトやパートといった方を採用することが多いので、退職者数が多くても、それほど問題にはなりません。一方で、管理職の退職が頻繁に起きている場合は、上場審査上で問題視されるので、そちらはご注意ください。

その他、勤怠管理の方法です。最近はテレワークも増えていますので、勤怠管理の方法について、きちんと把握できる仕組みを作っておくのが重要です。

その他、36協定ですが、多店舗展開しているとか、事業所が数多くある会社の場合は、各事業所等で届け出をする必要があります。いま一度、全ての事業所で36協定が届出されているかを確認する必要があるかと思います。

その他、IPOの短期調査の際に労務デューデリジェンス(労務DD)を受けていない場合は、一度受けておいたほうがよいかと思います。よくある話として、割増賃金の計算方法を違った方法でやっているといったことがあります。一度も受けていないのであれば、上場申請するまでに、おそらく証券会社からも言われるかと思いますので、労務DDを受けることをおすすめします。

続いて、中長期経営計画及び年度予算の内容についてです。こちらは成長可能性に関する書類との整合性をとる必要があります。

コーポレート・ガバナンスに関する報告書

続いて、コーポレート・ガバナンスに関する報告書です。こちらは、証券取引所が定める適時開示制度の一環として、コーポレート・ガバナンスについて、会社の取り組みや目的などを記載した報告書です。

こちらも適時開示制度の一環で公にされていますので、他社事例で確認できます。特に内部統制システムに関する事項の、反社会的勢力排除に向けた基本的な考え及びその整備状況については、反社勢力への対応をどうやっていけばよいかということを、他社事例で知ることができますので、参考になるかと思います。

他にもインセンティブ関係で、ストックオプションを発行している場合は、そちらを記載する必要がありますので、ご注意ください。

他の項目については、Iの部との整合性を確認する必要があります。

事業計画及び成長可能性に関する事項

最後に、事業計画及び成長可能性に関する事項です。こちらは、上場日の当日に事業計画及び成長可能性に関する事項を開示する必要があります。またグロース市場の場合は、上場したあとも、毎年一回進捗状況を反映した最新の内容を開示する必要があります。

重要なポイントとなるのは、会社の事業実態であったり、上場審査時に説明した事業計画や、主幹事証券による成長可能性に関する評価と内容が整合しているかどうかです。適時開示で他社事例が開示されていますので、確認すると参考になるかと思います。

ここで記載している「記載内容」については、皆様の会社で事業計画を作成する際に必要な項目になりますので、チェックリストのような位置づけで利用していただくのもよいかと思います。

質疑応答

Q.上場に向けたタスクスケジュール例(管理体制構築なども含めたもの)と、上場申請書類の準備スケジュール例の関係性を再度ご説明いただけますか。

A.おそらく上場スケジュール例と上場申請書類の作成スケジュール例との関連性かと思います。関連性でいうと、上場スケジュール例は一般的なスケジュールという形で提示しています。一方で、上場申請書類の作成スケジュール例は、ある程度非常に余裕をもって進めるためのスケジュールになります。スケジュールにもし余裕がなければ後ろにずらして、対応していくことになります。

Q.労務DDはどこから受けるのでしょうか。

A.社労士が実施しますので、社労士法人、IPOを専門にしているコンサルティング会社にお願いすることになると思います。

Q.印刷会社はどのタイミングで契約するのがよいのでしょうか。ベストなタイミングと期限について教えてください。

A.理想的に、非常に余裕を持って対応したいということであれば、N-2期中のところで契約をして、いろいろなツールを提供していただくのが一番よいスケジュールです。ただ、お金も発生しますので、まだそんなに早くやりたくないということであれば、N-1期、直前期になってから契約してもよいかと思います。

Q.上場審査に落ちる会社が約20%とのことですが、その後の再チャレンジなどでもだめで、完全に諦めてしまう会社の割合はどれくらいでしょうか。

A.20%というのは、東証の方で公表してる数値ですので、その中には、申請したものの途中で自主的に申請を取り下げる会社もあります。上場審査でだめと言われた会社の場合ですと、承認されなかった理由次第になります。まだ事業の成長可能性が認められないということであれば、再チャレンジするケースももちろんあるかと思います。管理体制に問題があるということであれば、管理体制の改善にチャレンジしなければそこでやめる会社もあるかと思いますが、推測でしかありません。

Q.経理メンバーは、公認会計士の有資格者でなければいけませんか。


A.必ずしも有資格者である必要はありません。資格があったとしても、上場準備に慣れていない人もいますので、一概に資格があればよいというものではないとご理解いただくのがよいかと思います。

以上、セミナーの内容をお伝えしました。

数多く上場申請書類の作成を支援された本田氏だけあって、非常に分かりやすく詳細にお話しいただきました。一方で、その内容の膨大さ、作成時に気を付けなければならないポイントが多岐にわたることも伝わってきました。IPOのためにはしっかりとした準備が必要です。

申請書類の作成とともに、上場準備の段階で整えておきたいのが強固な予実管理体制です。予実管理クラウドサービス「DIGGLE」は、予実管理業務の標準的なフローを提供し、着地点の差異分析が誰にでも簡単に行える経営管理ソリューションです。予実管理体制を整えたい企業のご担当者様はぜひご検討ください。

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