IT費用管理を脱表計算ソフト化──全社システムより精緻な管理が可能に

導入の背景
- ITコスト集計作業に膨大な工数がかかっている
- 予算業務実施時期の残業や休日出勤を削減したい
- 表計算ソフト管理で生じている課題を解決したい(複数人同時更新不可、数式の破損など)
選定理由
- ITコストの可視化が容易になる
- 機能がシンプルなので直感的に操作ができる
- SaaSでシステム導入のハードルも低く、スモールスタートできること
導入効果
- 転記ミスや表計算ソフトの数式破損が防止できる
- チェック作業の工数が大幅に削減できる
- 予算担当以外のメンバーの予算に対する意識が向上
この記事では、予実管理クラウド「DIGGLE」導入前の課題や導入後に得られた効果、今後「DIGGLE」にご期待されていることなどについて、株式会社東急コミュニティー経営戦略統括部 グループIT推進部の西村さんと内野さん(以下、敬称略)にお話をお伺いしました。
導入背景
表計算ソフトでの予実管理に限界、非効率な転記作業と運用を改善したい
最初にグループIT推進部の役割についてお聞かせください。
西村:私たちが所属しているグループIT推進部を一言で表現するとIT関係全般を扱っている部署です。IT統制、インフラの導入・保守、セキュリティの管理、システム開発・運用保守支援などに対応しています。
グループIT推進部には、いくつかの部署があり、私が所属する「ITソリューションチーム」では、システムの開発・導入・保守を主に担当しています。内野が所属する「IT戦略課」は、IT統制や人材育成、予算管理のほか、生成AIやデータ活用などの戦略的な取り組みも担っています。「ITインフラ企画課」では、PCやネットワークなどのITインフラやセキュリティの管理を行っています。
改めてお二方のご経歴と「DIGGLE」導入時に担われた役割をお聞かせください。

西村:私は2011年度に中途入社し、そこから14年間IT部門に所属しています。入社から5年間はシステム開発や運用保守の部署で複数システムを担当していました。
2016年度からは部の運営業務中心の部署に異動となり、課の役割として予算業務もあったため「DIGGLE」導入プロジェクトの一員として構築に参画しました。
内野:私は2007年度に新卒で入社し、2017年度よりグループIT推進部にて予実管理・庶務などを担当しています。
「DIGGLE」導入時は、データ登録や部内の予算担当・各担当者向けに導入の周知や、表計算ソフトからのスムーズな移行をフォローする説明資料の作成などを行いました。
「DIGGLE」導入前の課題についてお伺いしていきます。まず「DIGGLE」を導入する前は、どのような業務プロセスやツールで予実管理を行っていたのでしょうか。
内野:ツールに関しては表計算ソフトで管理していました。
経理に提出するファイルに合わせて部内の書式を作るといった形で工夫を重ねながら運用していました。
西村:まず予算については、各担当者に1年間のスケジュールや課題、必要な予算などをまとめた業務計画書を作ってもらい、それを予算担当者が「マスタとなる表計算ソフト」「経理に提出する書式」「予算システム」の三つに転記していました。
内野:見込については、予算担当者がベースとなる資料を作成し、変動予想があるものは各担当者に確認と資料の更新を依頼。その内容を予算担当者がチェックし、表計算ソフトに入力、集計し、最終的に経理に提出する書式に転記をしていました。
その際、業務担当者との日々のコミュニケーションの中で「ここの価格変動がありそう」「人が増えてライセンスが必要になるかもしれない」といった情報を集め、その情報と実際の数字と見比べながら差異が発生している要因を分析していました。
この分析は経営層に提出する書類に使用しており、現場の言葉、例えばIT用語を経営層に伝わりやすい言葉に翻訳するイメージです。部内それぞれのチームに予決算を取りまとめている担当者がいますが、チーム内で取りまとめた表現はそのままだと他部署に伝わらないこともあるので、理解してもらいやすいよう翻訳していました。
実績については、担当者から請求書を回収し、内容をチェックして表計算ソフトに転記。毎月の決算値と表計算ソフトの数字に乖離がないかを確認していました。
表計算ソフトで運用する上でご苦労されていた点をお聞かせください。
西村:表計算ソフトなので見やすい表を作りやすい一方、埋め込んでいる数式が複雑になりがちでした。また行を追加するだけで数式が壊れてしまうこともあったので、集計値が信用できないケースもありました。特に科目が増減すると書式の変更が必要だったので、そのリスクを避けられませんでした。
また複数人での同時更新ができないことも苦労していた点です。どうしても一人に業務が集中してしまいますし、複数人で作業する場合も「今から更新して大丈夫か」という確認が必要でした。
表計算ソフトを課ごとに作っていたので、部の集計をするための転記が発生するのも課題でした。さらに科目ごとの集計で精一杯だったので、業務ごとの集計をしようとすると、専用の書式を別途作る必要がありました。
内野:私は転記作業だけでなく、部門の取りまとめも担当していたため、課内で集計した数字を転記した後、その数値が正しいか確認する作業にも、多くの時間を費やしていました。
そのような運用をされていた中で、特に解消したかった課題は何だったのでしょうか。
西村:予算業務は2~3名で作業をしていたのですが、表計算ソフトを使っていたときは作業負荷が高く、残業や休日出勤が発生していました。その負荷の原因のひとつが手作業による転記作業だったので、そこの解消が優先事項でした。
2022年度の実績ですが、予算と見通しの作業に、一人当たり約400時間を費やしていました。
先ほど内野さんはDIGGLE導入時に業務移行のフォローをされたとうかがいましたが、なにか印象的だったエピソードはありますか。
内野:当部はIT部門なので、「表計算ソフトで管理するよりもシステム化したほうがよい」という共通認識があり、ハレーションは起きませんでした。システム化の際には一定の反発はあるものだと思っていたので、印象的でした。もちろん、慣れている現行のやり方から「DIGGLE」に業務を切り替える最初のひと手間はありますが、そこは「当然発生するもの」と割り切った姿勢で受け入れてくれたのはありがたかったです。
選定理由
DIGGLE導入で重視したポイントはコストと操作性
「DIGGLE」導入に至った検討プロセスについてお聞かせください。
西村:ITコストは年々増加傾向にありましたが、十分な分析ができていませんでした。そこで、コストを可視化できるツールを導入したいと考えたことが、「DIGGLE」導入の決め手となりました。
さらに、当社が所属する東急不動産ホールディングスがDX銘柄(※1)を取得した際、各社のITコストをホールディングスへ報告する必要がありました。しかし、各担当者が部門ごとにコストをヒアリングする作業は非常に手間がかかるため、これを解消したいと考えていました。
※1: DX銘柄とは:経済産業省、東京証券取引所及び情報処理推進機構(IPA)が選定する、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていくデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業のこと。【引用元:経済産業省ホームぺージ】https://www.meti.go.jp/press/2024/11/20241101004/20241101004.html
「DIGGLE」の導入時、どのような点がよさそうだと感じましたか。

西村:まず多くのサービスはオンプレミス型で、初期コスト、運用コストともにかなり高額でしたが「DIGGLE」はSaaSで月額利用料を支払う形なので、システム導入のハードルも低く、スモールスタートできることが魅力でした。また機能がシンプルで直感的に操作できるので、部内周知、展開が比較的容易でした。これまで使っていた表計算ソフトに見た目が近かったからかもしれません。
全社では他の予算管理システムも存在する中で「DIGGLE」との棲み分けはどのように行われているのでしょうか。
西村:全社的には他の予算管理システムがあり、「DIGGLE」に入れた数値は最終的にそのシステムに登録します。
内野:当部では、予算管理システムには科目ごとに集計した数字を登録し、DIGGLEには業務ごとの詳細予算を登録しています。
活用効果
DIGGLE導入で効率化を実現、部門内の意識に変化も
「DIGGLE」導入後の運用フローについてお聞かせください。
西村:運用フローについては表計算ソフト運用時と大きく変えていません。基本的には担当者が業務計画書を作り、予算を「DIGGLE」に入力、予算担当者が「DIGGLE」上でチェックします。そこから「DIGGLE」上のコメント機能を使ってやり取りをし、予算を確定させます。
誰が、いつ、何をするという流れは変わっていないですが、「DIGGLE」を利用することで、予算精度が向上しました。
操作人数や導入期と平常期での使い方の違いについてお聞かせください。
西村:導入期と平常期で使い方の差はそれほどありません。基本的に30名程度で使用しています。導入期(2023年度修正予算時)は予算作成のみで利用しましたが、2024年度からは予算作成、実績取り込み、支払いチェック、見通し(見込管理)で利用しています。
内野:今後はこれまではできなかったさまざまな角度からの分析、例えば業務ごとや取引先ごとといった分析を充実させていきたいと考えています。
「DIGGLE」のカスタムフィールド(※2)はどのようにご活用されていますか。
※2:「DIGGLE」のカスタムフィールドとは、部門、勘定科目、集計キー、明細の各単位に設定できる属性値です。計画見込画面での入力項目のフィルタや並び替え、P/L分析での分析軸に利用します。
西村:カスタムフィールドはかなり自由に使っています。使う人ごとに請求書のチェックに使ったり、集計軸ごとにカスタムフィールドを作って分類したりと工夫をしています。
他システムとの併用や連携についてはいかがでしょうか。
西村:管理会計システムから実績データを出力し、その数字を「DIGGLE」に取り込んでいます。また会計システムに支払い情報を入力する際に「DIGGLE」の予算ID(※3)を摘要に入力しています。
内野:社内の別書式(経理向けの分析表)などの作成業務は引き続き別途対応しています。
※3: 予算IDとは、「部門×勘定科目×予算内容」の組み合わせで自動発番される「DIGGLE」内の管理ID。仕訳の摘要欄などを介して、外部システムとDIGGLEの計画見込データの紐づけを容易にする。
「DIGGLE」を導入後に実感した変化のポイントがあればお聞かせください。
西村:まず負荷軽減という意味だと、かなりの効果を実感しています。転記ミスがなくなり、チェック作業工数が削減できています。また表計算ソフトは年度ごとに作成するため、対前年比較が難しいのですが、その点も解消されました。
さらに予算項目の検索性も向上したので、予算入力ミスのチェックよりも内容のチェックに重点をおけるようになりました。
以前のように土日出勤する必要がないので、体感的には1回の予算業務の作業で40~50時間は削減できていると思います。
内野:以前は、対前年比較を行うためには、複数の表計算ソフトのデータを出力して紙を並べてチェックすることもありましたが、DIGGLE上で確認が出来るようになったので、紙の出力も不要になり、作業効率も上がりました。また、担当者との質疑をQ&Aシートを作成してやり取りしていたのですが、その作業はDIGGLEのコメント機能を活用することで、解消できました。
体感で40~50時間も減ったのは私たちも嬉しく思います。社内でのコミュニケーションに変化はありましたか。
西村:表計算ソフトのときは「どこに書くのか」といった質問がよく来ていたのですが「DIGGLE」は検索性が高く、直感的に探せるようになったので、質問の数は減っていると思います。
内野:そこに関連する話ですが、予算担当者以外のメンバーの予算に対する意識が上がってきているように感じます。表計算ソフトで管理していたときは、検索しづらいこともあってか、予算作成時以外にはあまり予算を確認する作業を行わない印象がありましたが、DIGGLE導入後は、検索のしやすさやコメント機能のおかげか、手軽に確認できるようになり、予算に対する意識が向上しています。
「DIGGLE」導入後は「予算をこう変更したいときはDIGGLE上はどう登録するのか」「以前登録した予算IDはそのまま使えるのか、新規IDが必要か」といった、表計算ソフトの時代よりも自発的な質問が増えています。このあたりは意図せずですが、表計算ソフトに比べ操作性が高いことにより、予算管理に対して前のめりになり、興味や質問の質が上がってきています。
「DIGGLE」への入力が自分の業務の予算に関わっているということが実感できるようになってきているのだと思います。
今後の期待
機能強化とAI活用で全社展開を見据える
今後「DIGGLE」に期待している改善点や機能があればお聞かせください。
内野:計画見込画面での集計キー(※4)の表示順を自由に並べ替えられるとより業務に寄り添った使い勝手になりそうです。例えば支払い担当が請求書と突き合わせて支払いチェックをするときに作業が楽になると思います。現時点では必要ない項目を非表示にしながら作業していますが、もう少し柔軟に動かせると便利ですね。
西村:もし今後、AIが搭載されるのであれば、例えばソフトウェアのライセンス費用の価格変動情報等から、「この予算では足りないのでは」というのをサジェストしてくれるとよいと思います。
※4: 集計キーとは、「DIGGLE」が計画見込や実績の明細を集約する単位。集計キーの各行は予算IDで指定され、計画見込画面では部門・科目のほか、カスタムフィールドに設定された属性情報に基づいて並び替えやフィルタが可能。
最後に同様の課題を感じている他社に対し「DIGGLE」導入で得られた気付きやアドバイスをお願いします。
西村:まずはITの知見と業務の知見に強い人を集めてチームを組んだほうがスムーズにことが運びます。
また経理部等の他部門を巻き込むことも重要です。「DIGGLE」導入前に、経理部に事情を説明してIT費用専用の勘定科目を作ってもらったのですが、そういう協力体制を作っておくのが大事だと思います。
全社展開する場合ですが、当社は表計算ソフトで運用していたので、各部門で運用方法や書式が少しずつ違っていました。しかし、これまでの運用方法を取り入れようとしたら、とんでもない仕様になってしまいます。特に予算業務は属人化されやすい業務なので、特殊な仕様を入れたくなる気持ちは理解できますが、そこを我慢して運用方法を整理し、シンプルな形で段階的にスタートを切るのが重要だと思います。
本日はありがとうございました。